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【必見!】好きな複合動詞ランキングTOP5 【君の推しはいるかな?】

↓こちらのアドベントカレンダー #ことば に参加させていただいた記事です。



 複合動詞とは、「走る」+「回る」→「走り回る」のような、二つの動詞が合体して一つの意味を成す動詞のことである。

 注目したいのはこの複合動詞の後ろの方(学術的にどういう言い方をするか分からないが)だ。
 おおよそ、前の動詞に意味を付け加える役割を果たす要素だが、これには上述の「~回る」や「~出す」、「~きる」、「~込む」のような誰とでも分け隔てなく接することができるタイプもいれば、「駆けめぐる」の「めぐる」のように「お前いつもあいつと一緒にいるよな」とか言われてそうな友達少なめのタイプもいる。

 今回は主に後者のぼっちタイプから、独断と偏見により好きな複合動詞を選んでみた。




5位 吹き荒ぶ(ふきすさぶ)

発想力:★★★☆☆
表現力:★★★☆☆
 語感:★★☆☆☆

 そもそも「すさぶ」という動詞を「吹き」の後ろ以外で殆ど聞いたことがない。「吹き」君がいなかったらクラスから「すさぶ」君の居場所がなくなるのが目に見えるようだ。
 それはともかく、「す」「さ」とS音の連続からの「ぶ」と、非常に唾の飛びそうな発音で勢いたっぷりなのがまさに突風という感じでよい。「聳え立つ」などにも感じるが、言葉を聞くだけで何となくイメージが伝わる気がするのは優れた複合動詞の証である。

 ちなみに「遊ぶ」でも「すさぶ」と読むらしい。あそぶじゃん。



4位 舐め腐る(なめくさる)

発想力:★★★☆☆
表現力:★★★★☆
 語感:★★★☆☆

 まずそう。
 「舐める」を強調する動詞として、よりによって「腐る」を持ってくるセンスは他の追随を許さない。

 国語辞典で調べると、「腐る」が他の動詞につくと「その動作をする人に対する軽蔑・ののしりの気持ちを表す」らしい。なるほど確かに「いばり腐る」「言い腐る」など、聞いたことがないでもない気がする。だがやはり「舐め腐る」のしっくり感が最高である。人を舐める人間は性根から腐っている、みたいなメッセージ性すら感じる。



3位 死に晒す(しにさらす)

発想力:★★★★☆
表現力:★★★★☆
 語感:★★★☆☆

 よく漫画やコントの不良・悪者が「死に晒せ!」みたいな使い方をしているのを聞くが、「死ね」まではいいとして、「晒せ」ってなんだ。内臓でも晒せばいいのか?
 丸く解釈すれば「死んだ姿を晒せ」というような意味なんだろうが、それはそれで文学的だ。多くの社会で禁忌とされる死者への冒涜を、まだ生きている人間にすら投げかけてしまうとは、見上げた反骨精神である。

 まあ実際は言ってて語呂がいいから適当に付けただけだろう。その安直さも良し。複合動詞ってだいたいそうなのかもしれない。



2位 聞き齧る(ききかじる)

発想力:★★★★★
表現力:★★★★☆
 語感:★★★☆☆

 「聞く」なのに「齧る」。耳を使う動作と口を使う動作。絶対に会うことはないと思われていた二人がついに出会ってしまった。なのに誰も不思議に思わない、超ド級の不思議動詞である。

 考えてみれば、「哲学をかじったことがある」といったように、「齧る」だけでも物事を浅く知ることを指す。これは「咀嚼する」とか「飲み込む」が、物事を深く理解することを指すのと非常に整合的である。齧るだけでは知識は身に付かない、よく噛んで栄養にしてこそなのだ、と言いたいのだろう。昔の人は脳で行うことを口の動作に喩えるのが好きだったようだ。
 そういうメタファーが我々日本人の腹にあまりにストンと落ちた結果、耳から得た情報を口で処理するびっくり人間が誕生してしまったのである。嗚呼、偉大なる先祖たちよ。短絡的でありがとう。



1位 禿げ散らかす(はげちらかす)  

発想力:★★★★★
表現力:★★★★★
 語感:★★★★★

 ハゲが何を散らかしたというのか。

 そもそも、散らかすものすら何もないのがハゲなんじゃないか。ハゲだって散らかせるもんなら散らかしたいだろう。

 この動詞を耳にするたびに私はハゲ達の無念の叫びを幻聴する。全く世の中の持てし者どもは、自らの頭上で鬱蒼と茂るタンパク質のジャングルが天からの授かり物であることを愚かにも自覚せず、焼き畑農業も裸足で逃げ出すペースで非サステイナブルな森林伐採が進む危機に瀕した憐れな環境活動家達のことを、あろうことか「禿げ散らかす」などと。散らかしているのはお前らの方だろう、恥を知れ。そんな血涙混じりの号哭が聞こえてくるのである。ちなみに筆者は今のところフサフサで、髪を切りに行くと毎回「量多めなので梳いちゃいますね~」と言われるジャングラーである。なので幻聴云々は全くのでっちあげだが、ともあれ理不尽な複合動詞であることには間違いない。

 一旦頭を冷やしてネットの意見を覗いてみると、ハゲはハゲでも「荒々しく無残にハゲた状態」のことを禿げ散らかすと表現する傾向にあるという(そこまで言わんでも)。
 要するに、たとえ毛量が少なくても、管理が行き届いたサバンナだったら「散らかす」とまでは言われないようだ。よかった。憂き世にも希望はあった。

 たまたま自分は今のところ恵まれているが、Y染色体を持って産まれた以上はいつ生え際の悪魔が顕現するか分からない。
 そんな時に妖怪・禿げ散らかしの汚名を着せられることの無いよう、頭皮ケアには一層の注意を払っていくべきだと改めて痛感するところである。読者諸兄(特にY染色体を持つ同志)におかれても、ぜひ心意気を新たにしてもらいたい。
 たった一個の用言から人生訓すら導けるこの奥深さこそ、複合動詞ランキングの頂を飾るに相応しい由緒であろう。





 多くの人々により思うままに運用されてきた結果、妙ちきりんなことばが生まれ出てしまうのはどの自然言語にも見られる現象だと思う。今回は筆者の見識の問題から日本語に絞り込まざるを得なかったが、きっと英語にもスワヒリ語にも面白い動詞はたくさんあるはずである。
 しかし、特に母語話者にとって、それらはしばしば「当たり前のもの」として慣らされ、その面白さを見過ごされてしまいがちだ。

 意味の濁流を常に這い漕いで生き渡らなければならない情報化社会の中で、ふとしたとき、「ことば」を鳥瞰的な視点から見つめ直してみると、そこには思いもよらないおかしさがあるかもしれない。

 時には意味で、時には音で、時には文字で、時には舌の動きで。様々な角度からことばを捉える嗅覚を磨き上げることが、この「おもしろがり」を愉しむコツであることは確かだろう。

 みなさんの好きな複合動詞は、なんですか?


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