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生きるが勝ち

 花は咲いたら散るしかないし、人間に限らず、すべての命はいつか終わる。それは私もよく理解していて、永遠の存在など望むべくもない。
 お前の好きなアーティストには「ずっと」って入ってるけどな西野……というツッコミが聞こえる。うるさい。ウチの推しは「ずっと真夜中”でいいのに”。」なんだよ。
 ちなみに私は「ずっと一緒にいたいorいようね」という言葉は絶対に信じない。誰も立証してくれないから。でも「なんか知らんけどずいぶん長いこと一緒だね。笑」は許せる。自分でもめんどくせえ。一生ひとりで暗い部屋でブルーレイ観ながらしゃもじ振ってろ。


 冒頭から衆院予算委員会くらい話が脱線しているけど、とにかく、全てのモノやコトには終わりがくる。
 それを人間如きがどうのこうのするのは間違ってて万物すべて終わるからこそ美しいなんて本気でそんなこと思ってんのかよお前、大地震起きたら真っ先に逃げそうじゃん……といつも思っている。こんな世界に希望はないしいつ死んでもいいとか言いながらTwitterのbio欄とか固定ツイートにAmazonの欲しいものリスト貼ってるメンヘラなんて、たとえ日本列島が沈没しても生きてそうじゃない? 死に物狂いで北方領土とかに泳いで渡ってそうだもんな。




 すべての命がいつか終わるんなら、別に今死んでも明日死んでも、数十年後死んでも一緒なんじゃないの?

 私はそうやって、あろうことか、かつての恋人に漏らしたことがある。私が恋人だったらその時点で、どんな風に穏便に波風立てず追いかけられない別れ方をするか頭の中でソロバンを弾くはずだ。それって要するに「あなたとずっと一緒にいる自信はないし、そもそもそんなん無理ですが? 反論がないならオレの勝ちだが?」って言ってるのと同じだ。失礼にも程がある。

 でも、相手は(また訳の分かんないこと言ってるよ)みたいな顔で笑いながら、そっと私に言った。

確かにいつ死んでも一緒かもね。
けど、だったら少しでもたくさん、そして長い時間「生きている間しかできないこと」をしたほうが、勝ちじゃない?

 なるほどねえ、と素直に納得した。単に「そんな悲しいこと言わないでよ」と言われるより、その言葉は自分の中にすんなりストンと落ちてきた。「~したほうがいい」でなく「~したほうが勝ち」という言い回しだったのも効いたと思う。

 西野夏葉としてもそう見えているかもしれないが、実はリアルの私はかなりの負けず嫌いである。気は弱いけど。クラスに数人いたであろう、死ぬほどまではいかずとも、きっちり勉強をして「いやーちょっと自信ないわ」とか言いながらテストでそこそこの点を取る奴。それが私。でも「きっとこいつには勝てるだろう」と思う相手にしかそんな話をしないあたりが、自分の気弱さが出ていてセコい。

 私はたとえ恋人に対してでもそんな一面を見せたくなくて、できるだけ隠そうとしていたのに、呆気ないほど簡単に見抜かれていたらしい。だからあの人は「勝ちだよ」なんて、私の気持ちを煽るような言い方をしたのだと思う。

 事実、私は「それなら、生きている間しかできないから次の連休は旅行に行こう」とか言い出して「ハァ?」なんて呆れ笑いをされて、実際に数週間後には二人で温泉旅行に出かけたのだった。貸切風呂に浸かりながら、やたらと極楽だー極楽だーとわめいてたら「そんなに言ってたら本当に死ぬかもよ」って笑われた。

 実際、いろいろあってその人と別れたときは本当に死んでしまいたかったし、その後もそれに輪をかけて死にたくなることなんかたくさんあったけど、あのとき血迷って実行しなくてよかった。

 なんだかんだ、今はそこそこ楽しく生きている。部屋は寒いしお金はないし小説も以前ほどハイペースで書けないし未だ目立った結果も得られてないけど、それでも毎日絶望して死にたがっていた頃に比べれば、今は羽毛布団をひん剥いて部屋の中をめちゃくちゃにしてる瞬間くらい楽しい。

 あのとき死んだifの世界線の自分より、私は長く、たくさん楽しんでいる。
 そういう意味で、私は今も勝ち続けていると思う。




 最近、Instagramで「コイツってお前の知り合いじゃね?」とサジェストされたアカウントを、なんとなく覗いてみた。元恋人だった。今では私が顔も名前も知らない誰かと契りを結び、縦の糸と横の糸になっているらしい。中島みゆきっぽく言えば仕合わせな様子だった。

 ふと、あの日の言葉が蘇った。

 そうか、あなたも、勝ちに行ったんだな。
 生きている間しかできないことを、一分一秒でも長く楽しもうとしてるんだ。
 変わんないなぁって言うか、もともと私よりもあなたのほうが、何倍も負けず嫌いだったな。

 基本的に別れた恋人のことなんて思い出してもしょうがないし、いっそ大嫌いになりたいのに、時折(どうしてんのかな)なんて少しだけ考えてしまう自分が女々しくて本当に嫌いだ。いや、中には今でも本当に嬲り殺してやりたいくらい憎い存在もいるんだけど、あの人はそうではなかった。
 付き合っていた当時の私は、確かな幸せを感じていた。誰かを好きになって、その相手に好きと言われることがこんなにも幸せなことだったのか……と素直に思えた、数少ないきらめきだった。


 いつか死ぬんだから頑張るのなんてかっこわりー、なんて平然と宣っていた少し前の自分が恥ずかしくなる。カチカチと回り続ける秒針がいつゼロを指すのか、私は絶対見ることができないにもかかわらず、一体どれほどの時間をドブに捨ててきたのだろう。

 あの人に負けたくないな。
 もっと言うなら、私より幸せそうに生きている全員に負けたくないな。

 シャンとしなきゃ。
 あとで振り返ったとき「あいつがなんだかんだ言って一番満喫してたよな」って思われるような存在でありたい。


 でもネタはやっぱり思い浮かばない。
 じゃあエッセイでも書くかあ、と思ってnoteを開いてみたはいいものの、最終的には何が言いたかったのかよくわかんない記事になってしまった。すみません。


お読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは、創作活動やnoteでの活動のために使わせていただきます。ちょっと残ったらコンビニでうまい棒とかココアシガレットとか買っちゃうかもしれないですけど……へへ………