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五大シャトー ~テイスティング編~ (2019.03.16)

前回の続き。❝権利証❞を手に入れた私は、バーの開店時間までぶらぶらと二子玉川駅周辺を散歩した。河川敷の風が心地よい。跳び縄のようなもので巨大なシャボン玉を作るおじさんと、それを指差す子ども。久しぶりに穏やかな気持ちになった(笑)

何となく抜栓直後は嫌だったので、開店1時間後にバーに向かった。既に殆どの席が権利者でうまっていた。やはり皆待ちきれなかったのだろうか。私も同じだったが、同時に何だか妙な気分でもあった。

コンスタントにワインを飲み始めて10年以上経つが、私は未だラトゥールとムートンは飲んだことがなかった。特にラトゥールはこれまでに読んだ様々な雑誌・記事から妄想が膨らみ、特別なワインになっていた。

憧れのものが手に入ると分かると、ちょっぴり寂しい。不惑を前にしたおじさんが発する言葉ではないが、勘弁して欲しい。憧れの存在を写真に収め、カウンターで静かにワインの到着を待つ。

5大シャトーの具体的なラインナップは以下のとおり。

シャトー・ラトゥール 1994
シャトー・オー・ブリオン 2002
シャトー・ムートン・ロートシルト 2011
シャトー・ラフィット・ロートシルト 2013
シャトー・マルゴー 2014

いよいよ目の前に全てのワインが並べられ、テイスティング開始。もちろん、ラトゥールから。

熟成が進んでいることを示す外観。全体の色調は他の4つのワインと比べると薄く、グラスの底が透けて見える。中心のレンガ色を帯びた赤からエッジのウィスキーカラーに向けて綺麗なグラデーション。

カシス、オレンジピール、丁子、ムスク、ジビエ、革、腐葉土。幾つもの香りの層が複雑に絡み合い、刻々と変化する。一本芯が通っているが、力強さが前面に出て来ることはなく、繊細さ特に酸の美しさが際立っていた。

尖った苦み、渋みは皆無で、滑らかな舌触りと共に長い余韻が続く。既に25年経っているが活き活きとしており、まだまだ熟成可能だろう。

何て素晴らしいワインなんだ。私は暫くこの余韻に浸っていた。この後残りの4シャトーもテイスティングしたが、ラトゥールの複雑さは群を抜いていた。もちろん、他のシャトーも熟成を経て真価を発揮するのタイプなので、あくまでもこのラインナップ間での比較だが。

引き続き、オー・ブリオンとムートンを味わった。ムートンも初めて飲むワインだったが、シルクのような舌触りで、コーヒーやトースト、カシスの香りが力強く立ち上る素晴らしい逸品だった。オー・ブリオンは、全体的に控え目ながら、ブラックチェリー、ブラックペッパーに墨汁のニュアンスが絡み合って複雑な香味を構成する、やはり素晴らしいワインだった。

しかし、次のラフィットで思いがけず期待を裏切られた。他のグランヴァンに比べると、明らかに軽く、緻密さに欠けるのだ。カシスと言うよりはストロベリーで、水っぽい。「これ本当にラフィット!?、舌がおかしい!?」、何度も自問した。

すると、期せずして隣のマダムが話し掛けてきた。

「ラフィット、いまいちですよね?」 

心底安心した。ラフィットの品質が期待したものでないことは残念だったが、自分の感覚があながち間違いでないことが分かったからだ。私はマダムに同感である旨を伝え、時間を置いて再度確認することにした。

最後にマルゴーをテイスティングした。ビンテージは若いが固さはなく、パワフルで最も膨らみのあるワインだった。問題は自分のボキャブラリーの無さだ。マルゴーは他のどのワインとも違う個性を持っており、自分の感覚はそれを感じ取れているつもりだったが、テイスティングコメントは他と似たような凡庸なものになってしまった。まだまだ修行が足りなかった。

その後2巡、3巡とテイスティングを繰り返したが、やはりラトゥールの優美さが際立ち、ラフィットはグランヴァンの風格を見せてくれることはなかった。マダムも帰り際に嘆いていた。

「最後まで何も変わらなかったわ」

ちなみに、途中マダムや他の人達がどうやって試飲チケットを手にしたのか話しているのが聞こえてきたが、如何に自分が甘ちゃんだったかを思い知った。彼らは、会場に近い3階のデッキで待機していたり、中には前日に下見に来て当日のルートを確認している人もいたようだ。それに引き換え、自分の無策たるや...orz

1時間程じっくり味わった後、私は帰路に着いた。あくまで結果オーライだから言えることだが、ラトゥールが飲めたし、チケット争奪戦のプロセスも楽しむことができた。言うことない一日だった。

そして、世の中のワイン愛好家は自分なんかよりも遥かに用意周到で貪欲であることが分かった。今更だが、気付けただけましというものだ。まだまだ飲みたいワインは山ほどある。貪欲に生きよう。



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