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速報: フランス発!ナチュラルワインに法的定義!その中身は?


こんばんは、じんわりです。

 過去に幣ブログでも何度か扱ってきたいわゆる「ナチュラルワイン」ですが、ついにフランスで新展開がありましたね。

 今まで公(法的)な定義がないとされていたこのワインジャンルについに法的定義が出来たとのニュースが飛び込んできました。

 「速報!」「飛び込んできました」とか煽っておいてなんですが、国内各SNSでも既出ですし海外では去年から報道がされていたようなので、速報性低いです(汗)。「速報!」と謳っておけば多少雑な文章でも体を成すだろう、という自分自身へのごまかしだったりします。

 本認証ルールのポイントを私視点でピックアップして、考えることを述べていきますね。


 引用した各種ニュースソースを複合的にまとめると本ルールの周辺情報は以下の通りですね。

フランス農業省、フランス国立原産地・品質研究所(INAO)、フランス不正管理局、Jacques Carroget氏率いるSyndicat de défense des vins naturelsの協業によって策定されたルール

本ルールで使用できる呼称は「vin méthode nature」 → 「自然な方法で造られたワイン」とでも訳しましょうか。

ヨーロッパの既存法制度では「ナチュラルワイン」という呼称は禁じられているため、新呼称は「vin méthode nature」とされた

ヨーロッパ圏内のみの適用で、3年の試用期間を設定

現在約50の生産者が本認証に取り組んでおり、5年以内に500者の参画を目指している

100銘柄以上、10万L以上のVin méthode nature呼称ワインが数か月後に上市予定


 それでは肝心要の認証ルールを見ていきましょう。以下にVin méthode nature を呼称できるようになるための条件=12ヶ条憲章を日本語に要約して列記しますが、原文がフランス語でしたので非常に怪しい仕上がりになっております(笑)。また第5条に至っては原文全体が曖昧で意味不明でした(ぶどうの交配や遺伝子組み換え不可、という意味でしょうか?それとも、クリオエクストラクションやセニエのような濃度調節の事を言っているのでしょうか?)ので原文のまま転記しています。個人ブログゆえのあらびき感ということで、ご容赦くださいませ。

Vin méthode natureの呼称条件=12ヶ条憲章

1. 有機認証ぶどう100%
2. 手摘み収穫
3. 野生発酵
4. 添加物使用不可
5. Aucune action de modification volontaire de la constitution du raisin n’est autorisée.
6. 高度な物理的処理(逆浸透膜処理、フィルタろ過、クロスフローろ過、瞬間低温殺菌、サーモヴィニフィケーションなど)不可
7. 発酵開始前及び発酵中の亜硫酸添加不可(瓶詰前の添加は30mg/Lまで可)
8. « salon des Vins méthode nature » ではワインボトルの隣に12ヶ条憲章を提示
9. 指定ロゴの使用(亜硫酸無添加版もしくは亜硫酸添加<30mg/L版)
10. 毎年バッチ毎に対象ワインを認証
11. 生産者は認証対象ワインとそれ以外のワインを明確に区別表示する
12. 生産者情報はオンラインで公開

 上の記載は簡略化されていますが、各条原文自体も比較的シンプルで条件定義が曖昧である(=いかようにも解釈でき逃げ道が残る)という不安がやや残ります。しかし、認証管理は法定の外部認証団体(=生産者グループとは赤の他人様)が行うそうですし、フランスの規制当局がルール作りに関与しているので、認証制度として最低限の機能は果たすと考えても良さそうですね。

 ここからは、この認定ルールによってVin méthode nature呼称ワインの「中身としてのおいしさ」が保証されるかどうかについて私見を綴りたいと思います。

 前提として「中身としてのおいしさ」はブラインドテイスティング時に「おいしい(orまずくない、臭くない)」と感じられる品質である、と置き換えて頂いても良いでしょう。Vin méthode natureという記号情報やバイアスがなくても売り物として成立するワインかどうかということですね。

「中身としてのおいしさ」という観点から私が気になったのは以下3ヶ条です。

3. 野生発酵
6. 高度な物理的処理(逆浸透膜処理、フィルタろ過、クロスフローろ過、瞬間低温殺菌、サーモヴィニフィケーションなど)不可
7. 発酵開始前及び発酵中の亜硫酸添加不可(瓶詰前の添加は30mg/Lまで可)

 まずは3条。「市販であってもなくても選抜酵母の使用は認めない」と理解するのが妥当でしょう。
 そして6条のフィルタろ過、クロスフローろ過が禁じられている点。
 最後に7条。発酵前の亜硫酸添加禁止と瓶詰前も添加量上限が30mg/Lであること。


 「野生発酵」とは、ワインのおいしさを演出してくれる有益な微生物だけでなく、ワインをまずいものにしてしまう変敗菌も入り混じった状態で、運を天に任せて発酵させることを意味します。びっくりするほど良い出来になるときもまれにありますが、多くの場合はがっかりなのですね。
 大量菌数の選抜酵母を投入しない場合、一般に有益な微生物が勢力を拡大してくるまでにある程度の日数を要します。その間に変敗菌が好き放題もろみ(発酵中のワインのこと)を食い漁り、まずい味&くさい臭いの素をもろみ中に排泄するのですね。

 アルコール発酵が終わりタンクや樽の中で貯酒熟成が行われる際にも、ルール上選抜のMLF(※)乳酸菌を投入できないはずですので、野生のMLFに運命を委ねることになります。酵母と同じく野生の乳酸菌もクリーンな善玉はほとんど存在せず、バターの香りが過剰になったりアレルギーの原因物質である生体アミンをワイン中に放出したりと荒れ放題になるケースが多いのですね。

(※)MLF=マロラクティック発酵: ワインの減酸、変敗菌抑制、香味生成の目的で人為的に行われることが多い。行われないワインもある

 また変敗菌の中にはアルコール耐性が強く発酵後期も生き残っている輩が散見されます。例えばそれら変敗菌を含んだワインをフィルタろ過せずに瓶詰めしてしまうと瓶内のワインは生き残った変敗菌の仕業で好ましくない変化を遂げる恐れもあります。

 亜硫酸は非常に秀逸な変敗菌駆逐手段です。発酵前に必要最小限の亜硫酸添加で変敗菌を駆逐してから、大量菌数の選抜酵母をもろみに投入すればアルコール発酵中の変敗菌被害はまず回避できるでしょう。

 つまり、変敗菌に悪さをさせないための各チェックポイントでの門番が選抜酵母であり、フィルタ処理であり、タイムリーかつ必要最小量の亜硫酸添加であるのですね。Vin méthode natureの呼称ルールに準拠する=3、6、7条を遵守するということは、変敗菌と戦うための武器をほとんど全て放棄してしまうということになりますね。結果、ブラインドテイスティングでおいしいと感じられないワインが出来上がる可能性が非常に高まるでしょう。
 この認証ルールを策定した人々はそのことを理解しているため、変敗菌危害に対するワイン醸造工程上の最終防衛ラインである「瓶詰前」の亜硫酸添加だけは選択可能としたのでしょう。本ルールの発起人Jacques Carroget氏は「認証ルール草案では亜硫酸添加を完全禁止としたが、いくつかの生産者から要望があり30mg/Lというルールを追加した」旨を語っています。

 認証ルール上亜硫酸添加が可能とされたのは唯一の救いではありますが、30mg/L未満の上限設定にはなんらかの根拠があったはずです。また、この認証ルールがロワールと異なる気候特性の地域の生産者にも適用される可能性があるのであれば、妥当性は検証されるべきでしょう。
 亜硫酸の効き目はワインのpHによって変わります。pHが高いほど効きが悪くなるのですね。ざっくり言うと温暖な地域ほどぶどう果汁のpHは高くなる傾向があります。

 ロワールワインの典型的なpHの情報は簡単に調べた限りでは見つかりませんでしたが、冷涼な地域ですのである程度良好なpH=高すぎないpHであると推測します。
 もし収穫時で2.9~3.3あたりであればMLFでpHが0.2ポイント前後上がることを勘案しても、30mg/Lで変敗菌を制御できるだろうという印象を持ちます。
 
 温暖な生産地域場合、例えば収穫時点のぶどうpHが3.5~という状況の場合、30mg/Lの亜硫酸添加で変敗菌を制御できるか、ちょっとどうだろう・・・という印象を持つのですね。

 もしこの認証ルールの7条をそのまま温暖地域の生産者に適用してしまうと、この呼称認証ルール自体が「がっかりワイン量産システム」と化してしまわないか、少し心配になるのですね。

 ここまでVin méthode nature呼称ルールについてやや批判的に書いてきましたが、曖昧だったワインのいちジャンルにひとつの法的基準が「できた」ということ自体は良いことだと感じています。法的基準がない場合、「言ったもん勝ち」と「粗悪品の横行」という潜在的問題が放置されてしまいがちです。また、農業省であったりINAOといったお国の機関が認めたということが、小さな一歩ではありながら注目すべき前進であるように思います。

 もちろんただ適当にルールを作っておけばよいということでもないでしょう。それが期待通りに機能するかということですね。正直なところ、この呼称ルール自体は極めて局所的にしか機能しないように感じます。

 今回の呼称ルールでは「呼称統制」(=事実と異なるor誤解を与えかねない広告表現の規制)としては機能すると考えますが、変敗菌汚染リスクを高める製造方法を要求していますので、一定程度の中身品質を担保する性質はないと言ってしまうこともできます。今後このルールがさらにブラッシュアップされたり、これ以上に秀逸なナチュラルワイン品質保証法制が出てくればと望んでいます。

 消費者さんをがっかりさせない目的で、ある程度法的基準は必要と考えていますが、そもそもルールを作って難しくすべきかという疑問が私にはあります。ルールを新しく作るとそれに対応するために余計な思考や労力が追加で必要になるものです。

 あくまで個々人の思想信条の問題ですが、使われるぶどうに有機認証がなくても選抜酵母を使用していても、そのワインは私にとって十分ナチュラルなものと感じられるのです。大切なのはボトルにNatureと書かれたステッカーが貼られていることよりも中身がおいしいことではないでしょうか、ということを読者さんにお伝えしたいのです。

 最後に、Vin méthode nature呼称ワインをまだ飲んでもいない状況ですので、おいしくないと断定するのも早計ですね。今後日本でVin méthode nature呼称ワインが入手できるようなるなら、勇気を出して飲んでみて再度皆さんにコミュニケーションできる機会があれば良いなと考えています。


さんて!

じんわり

引用:
https://www.facebook.com/SyndicatVinNature/
https://www.winebusiness.com/news/?go=getArticle&dataId=228237&fbclid=IwAR3S6AZ7C5wYGkWEpxapPjWm0ur9avOMx1TzGyZ_LgbK6NlpUncOThkCLyg
https://vinexion.com/de/content/pages/view/hash-b3e263d9-34d3-46bd-bcfa-34720f3f2e88/
https://www.vitisphere.com/news-91125-Natural-wines-get-definition-and-commitments-.htm
https://www.vitisphere.com/news-90038-A-charter-for-natural-wines.htm

関連稿: Vin méthode nature呼称が出来たとはいえ、まだまだ未整備な点が多い”いわゆる”ナチュラルワインと呼ばれるカテゴリ。

亜硫酸は必要なのか?ビオディナミの旗手も必要と言っていますね。

ナチュラル、オーガニック、エシカル、といった言葉は、ワインを売るためのパワーワードと化してきているような印象も受けます。


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