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ワインを癒しのパートナーに

香りの持つ力

アロマセラピーというのは、ラベンダーやローズマリーなどの精油を使い、その香りで心をリラックスさせたりする女性に人気のセラピー法です。
これは決して最近の流行というだけのものではなく、もともと香りには(というか嗅覚には)、他の感覚にはない不思議な力があるのです。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、「香りと言う無限の組み合わせを感じる嗅覚というものは、動物をそれ自体で喜ばすものである。」という言葉を残しました。
これは、「香りというものには、本能的な情動など気持ちに訴えかけるような力があるという意味です。」(『においと味わいの不思議』より)

この不思議な力の正体は、現代の医学できちんと解明されています。
ポイントは、嗅覚で得た情報が脳内を伝わる時の伝達経路にあります。五感のうち嗅覚で得た情報だけが、「考える脳」である大脳皮質を経由することなく、快・不快や喜怒哀楽などの感情を司り、「感じる脳」と言われる大脳辺縁系にダイレクトに入っていくのです。
つまり嗅覚刺激は、「これはバラの香りだ」というような知的認識がなくても、その刺激自体で感情を変化させられるということ。
「なんかわかんないけどこの香り癒される」とか、「なんかこの香り懐かしくて泣けてくる」というような嗅覚の経験、みなさんにもあると思います。

こうした香りの持つ情動への影響力は、当然のことながら精油だけに限られません。香りあるもの全てに、情動を変化させる力があると言えるわけです。
海の香り、森の香り、土の香り、そしてハーブティーやコーヒーの香りでも、私たちの心は自ずと変化します。
となればもちろん、これだけ豊かで変化に富むワインの香りに、情動を変化させる力がないわけがありませんよね。これが、「ワインアロマセラピー」という考え方です。

「マインドフルネス」的にワインを飲んでみると

ご存知の通り、ワインの香りは品種や産地によって大きく異なりますから、飲むワインによって心が受ける影響も大きく変わってきます。
香りだけではなく、ワインのもつ味わいや色調だって、心に影響を与えます。
酸味は気持ちを引き締めてくれるし、甘みは安らぎを与えてくれるし、渋みは心を落ち着けてくれたりします。

こうしたワインのセラピー的な力を発揮させるには、自分の内側に意識を向けながら、ゆったりとワインと向き合う時間が必要です。
ところが、ワインはなぜか、好きな人ほど飲む時に分析に走りがちです。
あ、この香りはピノだなとか、これはなかなかバランスいいぞ、とか。
もちろん、そういう分析はプロにとっては必要不可欠ですし、私も仕事でテイスティングをするときは、品質や味わいの分析にかっちり神経を集中させます。
プロでなくても、香りや味わいを表現したり、品種や産地を予測してその価値を語り合ったりすることは、ワインの大きな楽しみの一つですよね。

でも、こういうとき意識は完全に「外」を向いているので、いま体に取り込んだワインが自分の「内」にどう影響するのかを感じることはできません。
「自分の内側に意識を向ける」というのは、実は最近流行の「マインドフルネス」とか「ヨガ」に近い感覚です。
今、ここにあるワインを、ただそのまま素直に感じて、自分の心の変化に耳を傾ける。ワインが心にもたらす変化をありのままに受け止める。
ワインに対しても自分に対しても、評価や判断は必要ありません。
真剣にワインと向き合ってきた人ほど、こういう味わい方は難しいかもしれませんが、ぜひ一度トライしてみてください。

ワインは最強の癒しパートナー

仕事や人付き合いで疲れているとき、辛く悲しいことがあったとき、語るための言葉を探しながら分析するように飲むワインは、残念ながら心を癒してはくれません。
そんな時はちょっと飲み方を変えて、目の前にあるワインの香りや味わいに、思いっきり自由に身を任せてみてください。
「考える脳」ではなく、「感じる脳」で飲むイメージ。『テイスティングは脳でする』という本がありましたが、たぶんその真逆です。
ワインの発するメッセージが、びっくりするほど自分の心を慰めてくれることに気付くと思います。

ワインが好きということは、身近に最強の癒しパートナーがいるということ。
悲しみも辛さも酔うことでは癒されませんが、きちんと向き合って飲めば、ワインはきちんと癒してくれます。
いつもとは違う、新しいワインとの付き合い方。騙されたと思って、一度お試しあれ!

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