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Re:架空のCarnmore蒸留所とBenvulin蒸留所(小説『警視の週末』の舞台探し)

小説を気に入るたびに、その舞台となった場所に自分も行ってみたくなって、旅行計画を立てはじめてしまいます。 
今回は、スコットランドのスペイサイドに位置する架空のウイスキー蒸留所を舞台とする小説『警視の週末』をとても気に入って、その場所を特定するとともに、モデルとなった蒸留所を探してみることにしました。
「カーンモアCarnmore蒸留所」と「ベンヴーリンBenvulin蒸留所」と名付けられた蒸留所はいったいどこにあるでしょうか。
(※小説のあらすじや登場人物には言及しませんが、場所についての描写を引用します。未読の方はご留意ください。)

1.陸の孤島ブレイズ・オブ・グレンリヴェット(Braes of Glenlivet)

小説『警視の週末』には、主に2つの架空のウイスキー蒸留所が登場し、1つめの 「カーンモア蒸留所」は、雪が降ると道が通行止めになるような僻地に位置しています。

P8. チャールズはコックブリッジからトミンタウルに抜ける道を通って帰ってくるはずだ。雪で完全に閉ざされることがスコットランドでいちばん多い道路として知られている。馬車が道からはずれて立ち往生しているんだろうか。

P66. この吹雪だ。グランタウンまで二十五キロもないけれど、行くことはできない。医者をこっちに呼ぶとしても、トミンタウルからではとても来られまい。吹雪になると、ブレイズ・オブ・グレンリヴェットは陸の孤島になってしまう。吹雪がやむまで助けは呼べない。いや、吹雪がやんでも、何日かたたないと道路が開通しないということもある。

P.362 「カーンモアはまだ先?」ジェマは思わず不満そうな声をもらした。…「あと十五キロくらい。冬場には、トミンタウルからブレイズに行くことができない日もあるのよ。トミンタウルとコックブリッジのあいだにレヒトパスっていうところがあるんだけど、スコットランドでは毎年冬になって最初に道路が通行止めになるのがそこなの」

実に厳しい天候が描写される「ブレイズ・オブ・グレンリヴェット」には、1973年にシーグラム社によって建設されたブレイヴァル蒸留所があります。ただし、立地は同じですが、カーンモアとブレイヴァルは別の蒸留所との記載があります。

P.364 チャペルタウンだ。ぽつぽつと家があり、教会もある。…白い漆喰塗りの蒸留所もある。…「違うわ。あれはブレイヴァル。シーヴァス・リーガルが70年代に建てた蒸留所よ。ここのウィスキーは、ブレンドウィスキーを作るためのもの。カーンモアと違って、ブレンドは市場の変化に対応しやすいといえるわ。大きな企業がうしろな控えてるってこともあるし」

架空の「Carnmore蒸留所」のモデルについて

ではブレイズ・オブ・グレンリヴェットに位置するとされるカーンモア蒸留所の具体的なモデルはあるのでしょうか。記述によると、以下のような特徴があります:

①家族経営
②1898年時点で稼働・1980年閉鎖
③3回蒸留
④荒野にあるしっくい塗りの建物

P.99 伝統的なスコッチウィスキー作りでは蒸留を二回行うが、カーンモアの蒸留は三回だ。ウォッシュスティルが一回と、スピリットスティルが二回。ウィルの父親は、こうして一回多く蒸留することで、カーンモア独特の軽くてスムーズな味わいが生まれるのだといっていた。

P.169 グレンリヴェットの近くにあって、1980年に閉鎖された。

P.313 建物は貧弱で、壁はしっくいを荒塗りしただけだ。雪に覆われた寂しい荒野のなかに、ぽつんと立っている。

3回蒸留を行っていたスペイサイドの蒸留所って、どこが該当するんですかね…。残念ながら、特定ならず…。

2.インヴァネス州ネジーブリッジ(Nethy Bridge)

続いて登場する2つめの架空の蒸留所「ベンヴーリン」は、カーンモア蒸留所から離れた場所に位置するとされています。

P.21 ベンヴーリン蒸留所とある。住所はインヴァネス州ネジーブリッジ。

P.304 ベンヴーリンはスペイサイドの蒸留所だ。カーンモアまでは二十五キロ近くある。

P.426 「トミンタウルまで来ればブレイズは目と鼻の先だ。寄らない手はないと思ってね」 「目と鼻の先だなんてートミンタウルからここまで十五キロはあるでしょうに!」

ベンヴーリンに名前が似ている1966年設立のタムナヴーリン蒸留所は、ブレイズ・オブ・グレンリヴェットまで約8キロしかないので、立地が異なります。
また実際のNethy Bridgeには、蒸留所がないため、モデルとなる蒸留所は別の場所にあるものとなります。

架空の「ベンヴーリンBenvulin蒸留所」について

ベンヴーリン蒸留所には、以下のような特徴が記述されています:

①ビジターセンターに水車がある
②キルンが2つ並んでいる
③チャールズ・ドイクがデザイン

P.17-18 高祖父が建てたという家…ヴィクトリア朝のふうのロマン主義を体現した建物…なめらかに磨きあげられた石材でできている…1960年代初頭には、大麦の粉砕に水車を使わなくなった…水車の建物は蒸留所のビジターセンターになっている…“ヴーリン”はというと、ゲール語のmhoulin、すなわち水車という言葉からきていて…

P.129 「地主館をまねたデザインでね」ブローディはジェマの視線を追った。「1885年に高祖父が建てた」

P. 133 「いうまでもなく、キルンも水車も、いまは使われていないんだ。飾りみたいなものでね。20世紀になってから、蒸気の動力に切り替えられた。だがうちの父が水車を修復して、動くようにしたんだ。見学の人たちには好評だよ」

P.513 「キルンをふたつ並べたデザインは、ヴィクトリア朝のチャールズ・ドイクっていう建築家が考えたもので、ハイランドの数多くの蒸留所がそれを取り入れたの。でも、こんなにバランスのとれた建物はベンヴーリンだけかも。ブローディ一族がここを愛した気持ちはわかるわ。」

水車があるといえばタムナヴーリン蒸留所となりますが、チャールズ・ドイク(Charles Cree Doig)のデザインで水車もあってキルンが2つ並ぶ美しい蒸留所というとストラスアイラ蒸留所あたりでしょうか。

タムナヴーリン蒸留所のビジターセンターの水車については、ヒデイシさんのnoteでのレポートが参考を参考にさせて頂きました:
https://note.com/whisukej/n/nfbe431f7d6e0

〔まとめ〕タムナヴーリン蒸留所からブレイヴァル蒸留所まで歩いてみたい

小説『警視の週末』の舞台をめぐる旅行計画を立てながら、モデルとなった蒸留所を特定することは出来ませんでしたが、Carnmore蒸留所に立地が近しいブレイヴァル蒸留所と、Benvulin蒸留所に名前が近しく水車という共通点もあるタムナヴーリン蒸留所に行ってみたくなりました。

実際のルートを検討するにあたり、スコットランド旅行計画の虎の巻である、東京・吉祥寺にあるThe Wigtownさんのブログによると、なんとタムナヴーリン蒸留所からブレイヴァル蒸留所までヒッチハイクしながら歩いて行ったとのこと!

私も真似させていただいて、いつかこのルートをたどってみたいものです。