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日本の風力発電コストがバカ高い理由6選

日本のメディアがわかっていない「そもそもなぜ日本の風力発電コストがバカ高いのか?」について、主要な理由を6つ選んで概説します。

日本の風力発電コストがバカ高いのは、日本固有のコストファクターが多いからです。そのコストファクターとは、以下の通りです。

  1. 地耐力のある基地港湾面積の欠如

  2. カボタージュ規制による傭船費の高騰

  3. 経産省の設計基準づくり丸投げ・追認

  4. 昭和の火力発電を前提にした使用前自主検査

  5. 連系点の遠さ(連系変電所までの自営線の長さ)

  6. 日本海側における建設可能時期の短さ

今回は上記の6点をざっくり概説し、各点については別記事で解説します。

1.地耐力のある基地港湾面積の欠如

洋上風力発電の場合、風車部材を船で運んできた後、基地港湾で風車
部材を仮置き、プレアセンブリー(仮組み立て)します。

基地港湾のイメージ(出典:Pixabay)

それには、地耐力のある基地港湾が必要です。国交省は、2026年までに35t/m²まで地耐力を高めた基地港湾を8haずつ4か所整備する計画です。しかし、地耐力の低さ、面積の狭さ、数の少なさから、作業を細切れにせざるをえず、これが洋上風力のコスト削減の最大のボトルネックになっています。

2.カボタージュ規制による傭船費の高騰

カボタージュ規制とは、ざっくりいうと、国内で作業する船を日本船籍に限定する規制です。洋上風力発電の建設には、SEP船(Self-Elevation Platform)と呼ばれる特殊船を使います。

SEP船のイメージ(出典:Pixabay)

ところが、日本にはこれまで沖合での洋上工事の需要がほとんどなかったので、国内にはSEP船が3隻程度しかありません。海外のSEP船を国内で使おうとすると、日本船籍に転籍しなくてはいけません。このカボタージュ規制が、日本のSEP船の傭船費を欧州の3~4倍に高騰させています。

3.経産省の設計基準づくり丸投げ・追認

日本は大きな台風も大きな地震も直撃するため、日本独自の風車の耐風耐震設計基準を設けています。特に問題なのが、500年に一度の確率で発生すると見込まれる「極(ごく)稀(まれ)に発生する地震(通称、極稀地震)」の設計基準づくりを、経産省が専門家の先生に丸投げし、追認していることです。

この先生は、学術的研究心の赴くままに、最も厳しい災害シナリオでも風車が倒れないようにするための設計基準づくりを目指しています。この先生は、「500年に一度の巨大地震が発生し、しかも、これらが定格運転、緊急停止、待機状態のうち、風車が最も揺れるケースで直撃しても風車が倒れない設計基準」をつくっています。

しかし、この想定ケースがレアケースであることを指摘するコメントが、風技解釈のパブリックコメントに寄せられています。経産省は、それでも専門家の先生に丸投げした基準を追認しています。(詳しくは、風技解釈のパブリックコメントの経産省の回答をご覧ください。)

これにより、日本の風車のタワーや基礎は、欧米向けの標準的なものよりも30~50%も重量が増えます。日本と同様に台風も地震も直撃する台湾では、そこまでの重量増加は起きていません。

このタワー重量増加は、風車の購入価格全体の3~5%程度にすぎませんが、クレーンの要求キャパシティの増大に伴う建設費の増大は、建設費の3~5%では済まないはずです。

4.昭和の火力発電を前提にした使用前自主検査

現代の風力発電機は、高度に電子制御されています。また、風力発電機は、放射性物質も燃料も使いません。万が一、事故が起きても、風車のナセル(筐体)やブレード(羽根)が燃える程度で、放射性物質を周辺にまき散らしたり、爆発を引き起こしたりすることはありません。

それにもかかわらず、経産省は昭和のアナログ制御の火力発電とほぼ同様の試験を風力発電にも求めています。これには、定格運転(出力100%運転)からの負荷遮断試験が含まれます。火力発電なら燃料の調節で出力100%に上げることはできますが、風力発電では風速13m程度の強風が吹いたときに限られます。そのため、風力発電所は、そのような強風が吹くまで試験を終わらせられず、建設コストを無駄に上げることになります。

5.連系点の遠さ(連系変電所までの自営線の長さ)

電気を遠くに運ぶための幹線のことを電力系統と呼びます。風力発電の普及を図っている国では、電力系統を大規模な洋上風力発電の計画地域の近くまで送配電事業者に電力系統の延伸を促す政策を採っています。

電力系統マップ(出典:地図とかデザインとかさんのTwitter

ところが、日本には大規模洋上風力発電所の近くへの電力系統の延伸を促す政策はありません。日本の送配電事業者は、大手電力会社から分社した会社ばかりですから、大手電力会社の持つ原発や火力発電所を中心とする電力系統のままです。

そのため、電力系統につなぐところ(連系点)が風力発電所から遠いことがほとんどです。その場合、風力発電事業者が連系変電所までの電線を自前で引くことになります。これを自営線と言います。風力業界では、ラウンド1の由利本荘市沖などは自営線が100kmを超えるほど長いと言われています。

6.日本海側における建設可能時期の短さ

冬の日本海では、海はしけ、陸は吹雪きます。日本海側の北日本では、12月から3月まで工事ができません。

冬の日本海側のイメージ(出典:Pixabay)

部材の運び込みから建設までを4月から11月までの8か月間でやりくりしなくてはいけません。このため、太平洋側なら越年せずに工事できる数量であっても、日本海側では越年せざるをえない場合があり、これも工事コストを上げる要因になっています。

まとめ

  1. 地耐力のある基地港湾面積の欠如

  2. カボタージュ規制による傭船費の高騰

  3. 経産省の設計基準づくり丸投げ・追認

  4. 昭和の火力発電を前提にした使用前自主検査

  5. 連系点の遠さ(連系変電所までの自営線の長さ)

  6. 日本海側における建設可能時期の短さ

上記6点が、日本の風力発電の建設コストがバカ高くなる要因です。これらのうち、1~5は官に起因する要因であり、民では解決できないものです。上記の1~5の制約の中で、価格を下げるには、電源・供給先固定型(特定卸供給)スキームのように、売電収入とは別の手段で回収するスキーム以外に手はないと思います。

日本のエネルギー自給率向上のためにも、国民の再エネ賦課金の負担軽減のためにも、1~5に深く食い込んでくださる政治家やメディアの登場を切に願います。

訂正

本記事の公開当初、「3.経産省の設計基準づくり丸投げ・追認」のところで「50年に一度の暴風と500年に一度の巨大地震が同時に発生」と書きましたが、極値風速の風荷重と極稀地震の地震荷重を足し合わせるという規定はなく、完全に誤りでした。地震荷重との足し合わせに関する記事を新たに公開するとともに、本記事を訂正し、誤記をお詫び申し上げます。

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