連系変電所までの長い自営線をめぐる発電事業者の長い闘い
風力発電の事業者は、風力発電所そのものだけでなく、風力発電所から電力系統につなぐまでの送電線も自分で敷設します。発電事業者が自分で敷設する送電線のことを「自営線」と言います。この自営線の敷設にあたって、大きく3つのコスト要因があります。
電力系統への連系点までの遠さ
地権者との交渉の難しさ
河川横断にかかる手続きの煩雑さ
電力系統への連系点までの遠さ
電力系統は、基本的に原発・火力発電所のような大きな発電所と消費地を結ぶように作られています。そのため、多くの場合、風力発電所の立地場所の近くには、電力系統が通っていません。(ここまでは、日本に限らず、海外も同じです。)
日本の場合、風力発電事業者は、必ずしも最寄りの電力系統が通っているところに接続できるわけではありません。電力会社(送電事業者)が、容量に余裕のある電力系統を指定して、風力発電事業者に自営線をつなぐ場所を指示します。その場所のことを「連系点」と言います。
日本では、原発再稼働に備えて、将来のための空き容量を確保している場合もあるため、必ずしも現在の空き容量がなくて、遠い連系点を指示されるとは限りません。いずれにしても、連系点の決定権は、風力発電事業者ではなく電力会社(送電事業者)にあるというのがポイントです。
電力系統が通っている場所を知るには、「エコめがねエネルギーBLOG」のGoogleマップが、各都道府県の電力系統図へのリンク集になっていて便利です。
風力発電事業者が敷設する自営線がどれだけ長いのかを知るには、住友電設の「プロジェクトストーリー」というウェブページの事例が参考になります。
地権者との交渉の難しさ
何十キロメートルにも及ぶ自営線を敷くためには、それだけ多くの地権者と交渉する必要があります。日本のように地権者が細かく分かれている国では、大きなコスト要因になります。
1.共同所有の土地の複雑さ
一つの区画を複数の地権者が共同所有している場合は、地権者全員と連絡を取り、交渉することになるため、非常に手間暇がかかります。こういう場所を回避するために、遠回りすることもあります。
2.地権者が風力発電に反対
地権者が風力発電に反対している住民の場合は、そもそも話し合いができないこともあります。他に迂回できる余地があれば、迂回するでしょうが、発電所の直近の場所で「ここしかない」という場合もあり、交渉が難航します。
3.地権者が反社会的勢力
自営線の想定ルートの地権者を調べたら、反社会的勢力の土地だったという場合もよくあります。前述の2と同様に、迂回できれば迂回することを選びますが、そうでなければ、こっそりお金で解決という話も…
4.地権者が不明
自営線の想定ルートの地権者を調べても、役所でさえ地権者がわからないという場合もあります。こうなると、やはり迂回するしかありません。
上記の4つの理由から、日本の自営線は、ただでさえ遠いのに、さらに曲がりくねったルートになります。そのために、風力発電事業者は、さらに多くの地権者と調整する必要が生じ、ルートもさらに長くなります。このことが大きなコスト要因になります。
河川横断の手続きの煩雑さ
自営線が長くなれば、河川を渡る可能性も高くなります。特に一級河川の横断があると、風力発電事業者にとっては、悪夢のような手続きの煩雑さとの戦いになります。
参考:東京電力ウェブサイト資料
自営線の設営にどれだけの時間がかかるか
発電事業者は、風車の基礎の据付が終わるまでには、自営線の設営を終える必要があります。系統への連系点が風力発電所から近いことがわかっていればまだしも、洋上風力発電所の場合には、数十kmは当たり前です。運が悪いと、100kmを超えます。
上記のように自営線が一級河川を渡る場合には、発電事業者は、基礎工事が終わる4年前(風車据付が単年の場合は、運転開始の5年前)までに、ルートを確保するスケジュールを引きます。
発電事業者は、それまでに「共同地権者」「反対住民」「反社」「地権者不明」などの難題をクリアしなくてはいけません。洋上風力発電なら、まず風車の配置など「洋上設備」から手を付けるものと思われがちです。しかし、日本で陸上風力発電の開発経験のある事業者は、洋上風力でも「洋上設備」と同時に「陸上設備」の検討を始めます。
洋上風力発電には、日本で陸上風力発電を経験していない事業者が、次々に参入しています。将来、公募で落札してから自営線の検討を始めた案件で、風車据付前に自営線が間に合わないという事例が出てくるかもしれません。
発電事業者任せの自営線でよいのか
政府は、上記のような自営線問題を「民事」だと片付けるつもりなのでしょうか。エネルギー政策は、経済活動の屋台骨であることから、先進国では、このようなボトルネック解消も、政府が政策として取り組んでいます。
原発では、こういった問題に、原発族議員が介入しまくったわけですが、原発利権に比べれば、再エネ利権など微々たるものです。それだけに、議員さんが介入するほどの「うまみ」はないのでしょう。
とはいえ、この自営線問題は、経産省が単独で手を付けられるものではありません。与党・自民党が音頭を取って、内閣府が省庁横断的に取り組まないと、国産エネルギーたる再エネの導入が進みません。また、この自営線問題のような隠れたコスト要因を表沙汰にしないと、いつまでたってもコストを下げることができず、私たちが払う賦課金で補うことになります。
この自営線問題を取り上げる政治家さん、マスコミさん、官僚さん、少数派でもいいから出てきてほしいものです。
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