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なぜ日本の洋上風力のウィンドファーム認証は3年以上もかかるのか?

過去の記事でさんざん書いてきた通り、日本の洋上風力の事業リスクは、官に起因する要因が多いです。官に起因する最初の難関が、「ウィンドファーム認証(以下、WF認証)」です。今回は、

  1. なぜ日本の洋上風力のWF認証は3年以上もかかるのか

  2. 今のWF認証のままだとどんな問題がおきるのか

  3. 早急に直すべきボトルネックは何か

について整理、考察します。

1.なぜ日本のWF認証が3年以上もかかるのか

陸上風力では1年~1年半程度のWF認証が、洋上風力だとなぜ3年以上もかかるのでしょうか。

「日本の洋上風力は始まったばかりで、世界の風車の大型化に制度設計が追い付いておらず、審査方法自体も手探りだから」というのが、第三者認証機関の一般的な回答です。この回答は反論の余地がないように思えます。でも、あえて反論してみましょう。

お隣の台湾は、日本と同じく巨大な台風も巨大な地震も直撃するリスクを抱えています。それなのに、洋上風力の建設が急ピッチに進んでいます。WF認証に3年以上もかかるという話はありません。この違いは、何なのでしょうか。

違い1.日本独自の耐震設計基準

日本の風力の支持構造物の主な設計基準は、以下の通りです。

上記には、IECなどの国際基準を参照する箇所もありますが、耐震設計については、ほぼ日本独自の基準が作られ続けています。日本独自の基準は、解釈が難しかったり、詳しく調べてみたら、そもそも方法論が確立されていなかったりします。その結果、WF認証の最初の半年~1年が、方法論の確認・検証に費やされることもあります。

違い2.審査中に変わる設計基準

耐震設計のバイブルとして、特に中心的に参照される「土木学会指針」は2010年以来、改定されていません。土木学会指針は、当時主流だった1MWの陸上風車を前提にしたものです。現在の陸上風車の主流の3~4MW機や今後の洋上風車の主流となる12~15MW機などには当てはまらない箇所も増えています。そこで、土木学会指針の中心的な編纂者である先生が、そのギャップを埋めるような研究論文を発表し、それをWF認証の基準として追加・変更していくようになります。WF認証の基準の追加・変更において猶予期間はありません。事業者は、WF認証申請時点で、このような基準の追加・変更を予見できません。そのために、陸上風力では設計のやり直しが発生し、半年~1年が無駄になるということも起きています。

違い3.申請者による方法論の考案

違い1で前述した通り、日本独自の耐震設計基準を、詳しく調べてみたら、そもそも方法論が確立されていないことがあります。日本のウィンドファーム認証の基準は、上記の設計基準にすべて明文化されているわけでありません。上記の設計基準に書かれていない問題が出てきたら、ウィンドファーム認証の申請者が方法論を考えて、ウィンドファーム認証を通じて、その方法論を検証することになります。

日本の風車支持構造物の耐震基準の成立フロー

上記のフローの通り、新しい方法論が承認されるまで、その方法論を必要とする設計プロセスは中断します。こんなことをやっていたら、設計もWF認証も遅々として進まないのは当然です。

さらに、上記のフローの下段に示した通り、新しい方法論が承認されると、それが猶予期間なく次の申請者にも適用されます。日本のWF認証は、違い2だけでなく違い3によっても、WF認証申請時点では全く予見できない基準変更が、WF認証審査中に起こりうる仕組みになっているのです。

なぜ日本のウィンドファーム認証がそのような仕組みになっているかと言えば、再現期間500年の極稀(ごくまれ)に発生する地震、いわゆる極稀地震の耐震基準を学術的探究心の赴くままに追求する専門家の先生に、経産省が基準作りを丸投げしているからです。上記のフローの通り、経産省は先生に言われるがままに、新しい方法論を追認して、風技解釈を改定します。だから、風技解釈が平均2年に1回と頻繁に改定されるのです。

2.今のWF認証のままだとどんな問題が起きるのか

極稀地震の耐震基準を学術的探究心の赴くままに追求する先生に、経産省が基準作りを丸投げし、先生に言われるがままにそれを追認し続けると、この先、いったい何が起きるのでしょうか。

日本独自の極稀地震の耐震設計基準のおかげで、日本の風車タワーは、欧州標準の型式認証タワーに比べて、30~50%も重くなることは、風力業界の常識です。風車は頭が重い振り子のような高層建築物です。そのため、支持構造物(タワーと基礎)が長くなるほど、風車は一度揺れるとなかなか揺れが収まらなくなります。着底式洋上風車では、水深が深いほど、支持構造物が長くなります。

日本の耐震設計で、水深20~30mの地点に12~15MW機を建てようとしたら、タワーは1,200トンぐらいになってもおかしくありません。そうなったら、タワーをプレアセンブリするのに、基地港湾の地耐力35t/mm²で足りるのでしょうか。基地港湾の地耐力が足りたとしても、1,200トンのタワーを吊り上げて載せられるSEP船が日本にどのぐらいあるのでしょうか。

SEP船のイメージ

極稀地震でも風車一本たりとも倒させない究極の耐震設計を追求する先生に言われるがまま、経産省が基準変更を追認してきた先に何が待っているのでしょうか。

それは、「12~15MW機を建てられないことが判明し、10MW未満機への設計変更を余儀なくされるサイトが出てくること」です。

とはいえ、2020年代後半には、大手風車メーカーGE, SG, Vestasは、10MW未満機の生産を終了して、12~15MW機に完全移行するでしょう。そうなったら、「日本の行き過ぎた耐震基準のせいで、事業不成立、海域占用許可返上」という前代未聞の最悪のシナリオが想定されます。

3.早急に直すべきボトルネックは何か

上記のシナリオを避けるために、経産省が早急に着手すべきことは、「リスクアセスメント」です。極稀地震で風車が倒れるリスクと、先生に丸投げした方法論を耐震基準として追認するリスク(上記のような事業不成立・海域占用許可返上など)を比較評価することです。

経産省には、リスクアセスメントの専門部署もあります。そこと連携すれば、経産省内で体制をつくることができます。そのうえで、経産省は、

  • 採用済みの基準の中で、行き過ぎた基準がないかリスク評価

  • 今後、専門家の先生が新しい方法論を進言した場合、都度それらを耐震基準に含めるべきかリスク評価

することで、耐震基準の暴走を止めることができます。

日本のWF認証が事業遅延・事業不成立リスクとして立ちはだかる状況に歯止めをかけるように、経産省が、

「先生、極稀地震でも絶対に風車が倒れない設計基準を作っても、その通りに設計したら建てられる風車がなくなります。このままでは、極稀地震で風車が倒れるリスクよりも、日本の耐震基準が厳しすぎて風車が建てられなくなるリスクのほうが上回ってしまうんです。これからは、先生の研究と、国の政策は、分けて考えさせてください。」

と軌道修正し、風力政策を健全化してくださることを期待します。

読者の皆さんへ

風力業界では、洋上風力の課題が民よりも官のほうに山積していると認識されています。それなのに、メディアはそれを取り上げず、「早期運開インセンティブ」のような茶番ばかりを取り上げています。

風力政策の健全化のために、この記事の拡散やコメントをよろしくお願いします。

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