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「白百合」

白百合のなかば開きてまどろみぬ 

娘の幼馴染みのT君が、旅立たれた。
40代なかば、病が突然彼を連れ去ってしまった。
娘が三歳の頃、訓練施設で出会ってから中等部卒業まで同級生だったT君。
出会ってすぐ意気投合して二人で這い這いしながら、言葉は話せないながら「T、行くよ~」「あいよ~」って、表情で語りあっていたね。

笑顔がとびきりで、みんなを幸せにしてくれたT君。
棺のなかで綺麗なお顔で、微かな笑みを口元にのこしていた。
お兄ちゃんが、「Tは、きっと生まれ変わって人生を楽しんでくれると思います」と。
周りのみんなも「パンが大好きだったから、もしかしたらパン屋さんになるかも!」と、T君の未来を想像した。

こんなこと思ってはいけないのかも知れないけれど、子どもが先に旅立つのはほんとうに辛いことだけれど、お父さんお母さんは、T君のそばにいて寄り添って見送ってあげられたことは、やっぱりよかったと思ってしまった。

私も常々娘のために長生きしたいと思っているが、こればかりは運命なのでどうなるか分からない。
ただ、もしも娘が辛いときがあっても、それまでの喜ばしい思い出がいくつもあれば少しは支えになるかも知れないので、せめて娘の記憶に残る私はいつも笑顔でありたいとそう勤めている。

死というものがどんなものか分からない娘は、曾祖母が亡くなった時も祖母が亡くなったときも「おばあちゃん寝てるね、起きなさい、朝だよ~。」って言っていた。
なにもかも運命なのだけれど、ひとつひとつの節目、出会い、別れ、穏やかなものでありますようにと、願わずにはいられない。

T君、きみを想う時、あの輝く笑顔ばかりが浮かぶ。
幸せな記憶をありがとうT君。