彼とのことは何も覚えてない

日記)

すごく暑い。

暑すぎて頭がおかしくなりそうと思いながら、スーパーとコンビニをはしごして帰っていた。到着した家の目の前で、腰の曲がった背の小さいおばあさんに話しかけられる。

「今何時ですか?」

夜か朝かも分かんなくてと言われながら、五時半ですとスマホをみて答えた。さっきオジサンにも聞いたんだけど夜の五時前で今日は金曜日で会社帰りだって言われたとかなんとか、話をまとめると土曜日だと思ってたし朝だと思っていたらしい。色々取り止めもなく一方的に話しかけられた、この年になると時間も曜日も分かんなくなっちゃうの嫌ねとか言ってた。その日はずっと家に引きこもってたから、対人エネルギーは有り余っていてうんうんって話聞いてあげた。あなたに会えて聞いてよかったわなんて軽く言われて、たじろいだよね。そんな言われるほど大したことしてないし。暑いから気をつけてねありがとうなんて締められて別れたけど、もう7月か暑いよな夏きちゃったのかなんて思った。

こんなに毎年暑かったっけ。

あれ、私、夏っていつも何してたっけ。

5年半付き合ってたから、計6回の夏を一緒に過ごしたはずだった。あの人との夏のことだけ、すっかり何も思い出せない。バイト先の子とのこと友達とのこと家族とのことは思い出せるのに。

何かあったはずなのに、何もなかった。

きっと本当に何もなかったのかもしれない。いつも一緒にいる彼女と、夏休みだからとわざわざ遊びに行ったりしなかったのかもしれない。帰省やバイトで暇もなく、クーラーのもとダラダラとした幸せで生きてたのかもしれない。

多分、半分そうで半分そうじゃない。その瞬間噛み締めたはずの幸せは覚えるほどの幸せではなかったということだし、きっと嫌なことばかりで忘れたんだと思う。確かに、ひどかった喧嘩で家を飛び出されたこと飛び出したことを思い出せば、ほとんどが半袖ショーパンの部屋着スタイルだ。ここまでくると、自己防衛本能ってやつなのかとも思えてくる。

四季を思い出せないほどに、必死で一緒にいようとしていたことも怖い。ここ数年ぶんのあの人との夏のこと、何も思い出せないのも怖い。

"普通"という正常に戻って気づく、壮絶さ。

他の人との楽しかった記憶は全然あるから記憶力の問題とかじゃなくて、ただ本当にあの人との時間が必死だった。辛かったし、辛かったんだろうな。

これが綺麗なうちに、正しくやめられなかった恋の代償なのかもしれないな。私の青春、私の5年半、なかったことになった。なかったことになっている。

あの時必死に抱えていた、恋だと思っていたそれは一体何だったんだろう。何であんなに必死だったんだろう。虚無虚無ぷりん🍮

おばあちゃん、実は私も何が何だかわかってないんだ。おばあちゃんのそれは半分歳のせいだろうけど、それだけじゃないこともあるから安心して。


以上

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