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小説・「塔とパイン」 #08

僕が今、働いているショップ「Konditorei Weise」は、ドイツ第三の都市の旧市街にある。旧市街と呼ばれる地区は、規模の大小はあるけれど、どこの街にも存在する。いかにも「ヨーロッパの街並み」だ。

石造り、煉瓦造りの屹立した伝統的な意匠の佇まいの建物が、これまた石畳の旧道に面している。一見すると画一的に見えるが、よくよく目を凝らしてみると、同じではない。

俯瞰して見ると「あぁ、全部一緒だなぁ」と思ってしまう。

じっくり目を凝らして見てみると、ひとつひとつが、違った味を出している。

意匠ひとつとっても違う。鳥をモチーフにしたり、人物だったりもする。


伝統的な佇まいと、新しい何かの融合が今のこの街の喧騒を磨いているのだろうということは、街中に立っていると、よく感じられる。


旧市街の石畳のメイン通りには、レストランやバーが乱立していて、平日の夜はいつもノリのいい音楽と、ビールを片手に歓声を上げる、地元の人たちの陽気が聞こえてくる。


メイン通りを北に向かって数百メートル歩き、3番目の交差点を左に曲がると、少し喧騒が収まる。交差点から100メートルほど歩くと、古ぼけた木の看板に書かれたKonditorei Weiseが見えてくる。

いや、見えてくるというよりは、マップ片手に探さないとわからない。


看板は確かに存在する。意識しないと看板は見えない。知らない街を俯瞰して歩いていると、目的地が見つからない。その絶妙なバランスを持った位置に、この店は屹立している。


隠れ家的なところにあるからこそ、地元の人たちに愛される。

僕はこの店「Konditorei Weise」をそう評している。

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