小説・「塔とパイン」 #01
「この空、日本にもつながっているんだよなぁ・・・」
午後の昼下がり。お客が来ないこの時間が仕事中、唯一電子タバコが吸える時間だ。この時間を逃すと、夕方までノンストップだ。
電子タバコを吸うと、どうもうつむきがちになるのが嫌だ。
だから意識的に顔を上げて、吸うようにしてる。
仕事柄、タバコは吸わないほうがいいし、健康にも悪いことはわかっている。でも、わかっていても、やめられないことはいくつもある。
2本目を吸おうか、迷って、結局吸おうとして2本目をセットした。
「あ、電池切れ・・・しゃーないな」
誰に聞いて欲しいわけでもないのに、ひとりそんな言葉が出た。表通りは煌びやかだけども、従業員が使えるのは、裏路地のわずかばかりのスペース。灰皿だっていつの間にか撤去されてた。
吸い殻だって、そこに捨てちゃ、まずい。
・・・いつからここにいるんだろう。もう、毎日が忙しすぎて、いつからだったか思い出せない。ちがう。本当はただ過去を思い出したくないだけだ。
「俺、このままでいいんだろうか?」
親指と中指の爪の間に入り込んだ、小麦粉と卵と蜂蜜を練った生地を人差し指で取りながら、取り止めもなく、ボーッと考えた。
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