マガジンのカバー画像

小説・「塔とパイン」

27
作:よわ🔎 概要:45歳、片田舎の洋菓子店のパティシエが、紆余曲折、海を渡ってドイツでバームクーヘンを焼き始めた。 ※毎週日曜日更新(予定) ※作品は全てフィクションです。著…
運営しているクリエイター

#ステファン

小説・「塔とパイン」 #07

小説・「塔とパイン」 #07

午前中の戦場。

開店と同時に、かなりの来客がある。行列ができるほどではないけれど、古くからこの街にあるこの店は、ちょっとしたシンボルになっている。

自分は裏方なので、表に出て接客することはないが、売り子のショップ店員達は、開店と同時にせわしなく動いている。

「いらっしゃいませ〜」

日本にいるときには何度となく聞いた、この言葉。ここではほとんど聞いたことはない。軽く「Hi!」とか聞こえる程度

もっとみる
小説・「塔とパイン」 #06

小説・「塔とパイン」 #06

「生地が命だ」

「職人として、大事なことは生地に命を吹き込む」こと。いや、これは職人の道に入ったときに「師匠」から教わった言葉。

独立してから「師匠」には会ってないけれど、心のメモリーには記録されていて、時々記憶の棚から引っ張り出してくる。

辛いとき、苦しいとき、悲しいとき、それでも厨房に立ち続けなけやいけないこともある。そんなときにこの言葉を反芻する。

そうするとふと、落ち着く瞬間がある

もっとみる