(4)私が親友の女の子への10年間の片想いを拗らせた話


続きです。


社会人になって少し過ぎてからのあるとき、お互いが好きなバンドのライブに彼女を誘った。
そのバンドは私が中学生の時に出会って、初めて自分のお金でCDを買って、今でも大好きな、とても思い入れがあるバンドだ。つらい時にはこの人たちの曲がいつも支えてくれるのだけれど、
このバンドを教えてくれたのはまさに彼女だった。

しばらく連絡もとっていなかったし、会っていなかったし、仲が良かった時でさえ2人でライブなんて行ったことがなかった。そして、「好きな人をライブに誘う」なんて、ものすごく勇気が必要だった。けれど、このバンドを教えてくれた人と行きたい…という一心で、思い切って声をかけた。
だって、このバンドの曲のどれを聴いても、全部彼女に当てはめて聴いてしまっていたのだ。隣で一緒に聞きたい。まあこれはただ単に私の勝手なエモなんだけど。

ライブの日、私は先に会場に到着していて、彼女は後から来る予定だった。
ところがイマイチ連絡がつかない。この時間に連絡が取れないと、待ち合わせの時間に間に合わなくないか?と思っていた頃、電話がかかってきた。
遅くなってごめんね、という連絡と共に、言われた。

実は私、鬱なんだ。

私は、なんとなくそうかな、と思っていたから、あぁやっぱりそうだったのか、という気持ちだった。

その後、ライブが始まる前に無事合流することはできて、ライブが始まるまでの間色々話を聞いた。会場が私の家から近かったから、この日は私の家に泊めて、その時も色々、近況を聞いたりした。
鬱になった原因だとか、家族の話だとか。中学の頃に色々聞いていたつもりだったけれど、当時のことで知らなかったこともたくさんあって、私が思っていた以上に深刻だったというか。


薄々感じてたとはいえ、やっぱりハッキリとそう言われると、彼女が鬱になったという事実が、少しショックだったみたいな気持ちも、正直言うとあった。
私はおそらく、心のどこかで「鬱になるのは弱いからだ」と思っているところがある。もちろん、そうではないと思うし、他人に対して、その人が弱いから鬱になんてなるんだ、なんて思っているつもりはない。
けれど、自分が鬱になりかけたのは、自分が弱かったからで、ダメな人間だからだ、と今でも思っていてる。いや、というか、私の場合はそうなんじゃないかと思っている。

だから、ずっと私の憧れで、強くてかっこよかった彼女が、いつでも私より先を歩いていて、追いかけてばかりで一生追いつけないと思ってた彼女が、私と同じような道を辿るなんて…
みたいなことを思ってしまったのだ。

そんなのは、私が勝手に彼女のことをすごいと思っていて、彼女の強いところしか見れていなかっただけなのだろうけど。いや彼女だって人間なんだぞ?と自分に言いたい。

彼女の場合、原因はきっと家庭環境だったり社会人になってからの環境だったわけで、もちろん彼女が弱いというわけでは全くないと思う。


しかし、よくよく話を聞いていると、そんな中でも彼女を支えてくれる人がちゃんといて、
ブラックだった会社は辞めて、身内の紹介で別の会社でお世話になったり、
そこで出会った男の子といい感じだったりしているのだそうだ。
その男の子とは、別にまだ付き合っているとかではなかったらしいのだけど、こんな私でも受け入れてくれたんだ、と彼女は言っていた。

私は、あぁまた男か…ともう何度目かわからない失恋みたいな気持ちを味わいながら、一方でよかったね〜と安心してみた。
でもやっぱりモヤモヤするということは、結局彼女のことを未だに好きなのかもしれないな、と思ったりもした。

この頃の私には、自分自身にもまだ余裕がなかったから、今の私じゃ彼女に何もできないな、という気持ちとか、今の彼女には支えてくれる人がいるみたいだし大丈夫そうだな、という気持ちとかで、
悔しいような悲しいような、安心感のようなものを感じながら、
なんとなく遠ざけたくて、確かこのライブの後、結局また連絡はあまり取らなくなったと思う。


高校で大学でも、たまにしか彼女と会わなくなると、なんだか久しぶりに会うたびに、連絡を取るたびに、いつもいつも彼女のことばかり考えてしまって、彼女で頭がいっぱいになって、調子を狂わされて、
やっぱり彼女と関わっても私にいいことは一つもないんじゃないか、と思い始めていて、少しずつ関わらないようにさえしていたような気がする。
それでも、結局なんだか好きで、気になって、相変わらず彼女のSNSだけで生存確認をする日々が続いた。彼女の投稿を、ほぼ全て追っていた。

様子を見ていると、不眠は日々悪化していそうだし、仕事もうまく行っていなさそうだし、あまりいい状況ではなさそうだったのだけど、
頼れる人もいるようだし、いい感じになったという彼もいるし、きっと大丈夫だろう、と、私は頭の片隅に追いやっていた。
私も自分が生きるのでいっぱいいっぱいだ。そのうち、いつの間にかその彼と同棲してるらしいとかも小耳に挟んで、あーそうなんだ、と。


ところがどっこい。
全然大丈夫じゃなかった、という話。

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