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「レベルあがったな……」と私はベットに座り込んだときにふと思ったのだった

私は今日、自分のレベルを5ぐらいアップさせた。

ところで、これを読んでいるあなたは、「やばい! レベルを5つあげちゃったなあ!」と思える出来事はどんなことだろうか。

私の基準で想像すると、夜遅く帰ってきたのに、手の込んだ料理を作って明日のお弁当も用意しちゃうとか。1日でハリーポッターを2冊も読み終えちゃったとか。パソコンのタイピング練習「寿司打」で、1秒間に7タイプもできるようになったとか。

自分のためにオシャレして、ランチに入ったお店でほかほかご飯をおかわりして、積読している少女漫画でときめきを注入して、夜寝る前にパックまでできたら、私は5レベルほどアップできると思う。

ただ、今日あがった5レベルは、精神的なこともそうだし、体力的なこととも紐づいている。

何があったかというと、遅延したのだ。家に帰るまでの電車が。

「え? そんなこと?」と思っただろうか。私も最初はそう思った。

打ち合わせ場所からいつも通りのルートで帰り始めた私。遅延しているとには気づかず、乗り換え駅まで到達した。ここで乗り換えれば最寄り駅までは、10分ほど。時刻はすでに21時を回っていたから、「あ〜やっと家に帰れる〜!」と思っていた。

すると「振替輸送を実施しておりますー!!!ご迷惑をおかけして申し訳ありません!!」の声が遠く遠くまで響いていた。

おや、と気づくと、改札前は人でごった返していた。携帯を見つめる人、近くの駅員さんにしきりに話す人。メガフォンを持った駅員さんが、さっきの言葉を叫んでいた。

ごった返す人の奥先に、掲示物が貼られているのを発見した私は、とりあえず先頭まで順番を待つ。進みは鈍い。けれどどうにか先頭にたどり着き、張り紙を見ると、私の最寄り駅のそのまた先まで、電車が遅延していた。原因は、路線信号の停電、そして復旧だった。

まあ、それは仕方ない。いつ頃電車は動き出すのだろうか。そう思った時、隣で同じことを聞いた人に答える駅員さんの声が聞こえた。

「ただいま、普及の目処はたっておりません」

この駅から先への行き方は、こちらをご参考ください、とA4の紙を配っていた。じっと見ていた私気づいたのか、駅員さんは「どうぞ」と私にもその紙を渡してくれた。

私の最寄り駅までは、80分、と書かれていた。

フリーズ。

80分……

は、はちじゅっぷん!!??

普段であれば10分で帰れる道のりが8倍に。私は呆然とした。お風呂も夕飯もびゅーんと遠ざかる音がする。悲しい音だ。私のあたたかな部屋は真っ暗のままだ。

ここで私に残された道は2つだった。待つか、動くか。カフェに入ってゆっくり時間を過ごすのか、「復旧の目処はたっていません」を信じて80分の道のりを過ごすのか。

5分ほど考えを巡らせたけれど、結局私は動いて、遠回りでもいいから帰ることにした。

もし待っていて、カフェが閉まってしまうと路頭に迷ってしまうし、終電後の普及だとしたら私はあたたかなベットでは眠れない。それはつらい。

私は乗り換え駅から、ターミナル駅まで向かうために辿ってきた駅を戻っていった。その後、別の路線に乗り換え、最寄り駅までバスが出ている駅まで向かう。

全電車、満員だった。もう人は入れないはずなのに、人は入る。不思議な光景だ。雨が降っていて寒い外気と、車内にいる人の熱気で窓が曇っていた。

ため息、咳払い、疲労、不満、が電車に揺られて運ばれる。

駅に到着した私はバスのロータリーまで歩いて、愕然とした。バス停が見えない改札を出た瞬間から、人が長い蛇のように並んでいる。私は自分がいかに遅延を甘く見ていたかを思い知った。バスに乗れたのは、駅についてから30分後。再び、満員のバスに揺られる。

ため息、眠気、空腹、苛立ち、がバスに揺られて、赤信号では止まる。

やっっっっっとの思いで家についたとき、私は満身創痍だった。だけど弱音を吐かずに、誰にも頼らずに、自分の家までたどりつけた。靴は雨で濡れているし、薄手のコートはびちょびちょだけど、家にたどり着いた。

「レベルあがったな……」と私はベットに座り込んだときにふと思ったのだった。

また1つ強くなった私が明日に向かっていく。



”終わりよければすべてよし” になれましたか?もし、そうだったら嬉しいなあ。あなたの1日を彩れたサポートは、私の1日を鮮やかにできるよう、大好きな本に使わせていただければと思います。