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”外発的動機付け”と”内発的動機付け”はどちらかを重視するのではなく、組み合わせが大切

私は無類の「カレー」好きです。食べる方も好きですが、作るのも大好きです。でも、作ることについては最初から好きだったわけではなく、妻との休日の家事分担の中で「しかたなく」作り易いカレーを作っていました。ただ、回数を重ねるうちに作ること自体が好きになり、スパイス、具材、作り方を工夫し、今ではカレーを作るときは「やる気」に満ちています。

家事や仕事など人が行動を起こすときには、動機というものが内面に存在しています。動機は大きく二つに分けられ「外発的動機付け」と「内発的動機付け」があります。それらを簡単に解説いたします。

外発的動機付け ~外から誘発されるもの~
外部からもたらされるものを目標として、その目標のために手段として行動することを外発的動機付けと言います。例えば、受験に合格するためや褒めてもらうために勉強する場合がそれにあたります。

内発的動機付け ~内から起こるもの~
自分の中から湧き出る興味・関心・楽しみから行動し、それ自体が目的となっているものを内発的動機付けと言います。勉強すること自体に楽しさ、面白さを感じてやっている場合がそれにあたります。

心理学では、やる気を長期に継続させるためには、外発的動機付けよりも内発的動機付けが重要といわれています。外発的動機付けの代表格の報酬は、最初に行動を促すためには良いものの、徐々に効果が薄れてくると言われています。

また、ロチェスター大学のエドワード・デシ教授は「外発的動機付けは内発的動機付けを低下させる」と主張。その論証としてこんな実験結果を紹介しています。

大学生のグループを二つに分け、一つのグループには、パズルが1問解ける毎に1ドル支払うと約束し、もう一つにグループには何も約束しませんでした。そして、その実験の途中で、両グループともに自由時間が与えられます。すると、報酬を約束されていないグループは自由時間もパズルに興じていた一方で、報酬が与えられるグループは、自由時間はパズルを解かずに、そこにあった雑誌などを読んでいたということです。このように、自ら好んで取り組んでいる行動に対し、外部から報酬が与えれると、かえって自発性が失われることが明らかになりました。この現象を、心理学では、アンダーマイニング効果とよんでいます。

こういった実験結果の影響もあり、【内発的動機付け>外発的動機付け】という公式が一般化され、外発的動機付けは、ある意味で「悪者」扱いされている場合も多いように思います。しかし、実際の生活や仕事の場面では、「良いとされる」内発的動機付けのみで行動が起こるケースは少なく、外発的動機付けとミックスされていることが多いように思います。前述の料理の話で言えば、最初は、正直料理なんて面倒だなと思いながらしかたなく作っていました(外発的動機付け)が、作っているうちに、徐々に料理自体が楽しくなってきて、いつの間にか内発的な動機で作るようになっているように思います。

そして、この二つの動機付けは、二律背反ではなく二つの動機の間に中間的な外発的動機付けが存在すると言われています。それを理論化したものが「有機的統合理論」というものです。

この理論では、外発的動機付けには、その自己の決定度合によって幾つかの種類があると説いています。それを図で示したものが下記となります。

速水俊彦.内発的動機付けと自律的動機付け.金子書房, 2019年, p31の図より筆者加工

一番上の「外的動機付け」は、これまで外発的動機付けとして説明していた意味していたものと同一。下に行けばいくほど、内発的動機付けの要素(自律性)が多く含まれ、「統合的動機付け」については、一番下の内発的動機付けとほぼ等しい意味合いになっています。

この「有機的統合理論」は、組織マネジメントにおいても大いに活かせると思います。内発的動機付けが大切だからといって、いきなりそれにアプローチしようとしても難しく、外発的動機付けを一つのトリガー(誘因)として与え、徐々に内発的動機付けと統合させていくやり方を取るべきでしょう。

例えば、これまで既存クライアントのルート営業ばかりやっていた人材に、新規営業をしてもらいたい場合、次のようなプロセスが考えれます。

1)本人のミッションに新規営業を正式に加え、獲得件数毎にインセンティブを与えるようにする。
2)その上で、成果に至らなくても、プロセス毎に上手く行った部分を承認する。(例えば、顧客から新規提案の機会を得たことだけでも承認)
3)新規獲得の重要性を説きながら、徐々にやらされ感から主体的に動くよう裁量を増やす。
4)自分で新規獲得件目標とそれに至る戦略を自分で立ててもらい、新規営業の意義や楽しさを感じてもらう。

内発的動機付けと外発的的動機付けは、どちらが大切という二元論ではありません。両方に効果的にアプローチしながら、1on1等でメンバーの育成を丁寧にフォローしていくことが大切でしょう。

【参考文献】
速水俊彦.内発的動機付けと自律的動機付け.金子書房, 2019年

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