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Start the party!!

「ラギ・ハイタイドってあんた?」
「…そうだけど。なに」
眼つきの悪いドレッド頭の男。行きつけのバーで遅い夕飯を楽しんでいたラギを、ドレッド頭は上から見下ろしていた。
「俺らと組む気ないか?」
「はぁ?」
突然の話題に、疑問符で答えた。
「何で俺に?」
「前に情報売った相手も覚えてねぇのかよ」
「…おかげさまで大繁盛なんでね」
記憶に無いわけじゃない。自分の記憶カにはそこそこ自信はある。
この男は情報だけでなく、仕事の遂行完了まで無茶なサポートを依頼してきて、結果、とてつもなく派手な方法で問題解決していったやつだ。
最初の契約よりだいぶん支払い金額が少ない結果だったのに、大した文句も言わなかったのも覚えている。
その彼の後ろに立つ長身の男も、見たことのある顔だった。
「あんたの情報、そこそこ確実でさ。俺らとしては割と儲かるんだよね。だから、他の請負屋に情報が渡るのは惜しい。で、囲い込みさせてもらおうかと思って」
「あー、そういうのか」
ラギは情報屋だ。自身が自分から依頼を出すわけではない。あくまで仲介業者として、請負先を見つけて依頼を回し、それに関連する情報を集めては渡すといったスタンスで商売している。
彼らが請負人だとすると、確かに競合他社より先に情報と仕事を手に入れるには、囲い込みをしておきたいところだろう。
「別に優先的に情報回してもいいけど? 通常よりちょっと多めに分け前をまわしてくれるならね」
プスリとポテトフライにフォークを刺し、会話の切れ目で口に運ぶ。よく考えたら、この手の交渉は驚くほどのことでもなかった。食事の手を止めるような深刻な話題じゃない。
「それやると報酬の山分けが面倒くせぇし。あとは現場と同時進行でサポート頼めねぇかなーって」
「えーっと、それは厳しいかも。俺現場向きのスキル皆無だから」
そもそも通常の運転技術すらもおぼつかない。だから、請負をやらずに情報屋をしているわけで。
「知ってるよ。あんたがレースでフラフラ走ってんの見たことあるから」
「知ってるなら話早いだろ」
「心配すんな。運転はうちらでなんとかするし、別に前線来いって意味じゃねえから」
ドレッド頭は終始お気楽モードで交渉を進めてくる。
「俺の助手席なら貸してやるよー?」
後ろの男は軽く手を上げて応えた。
…思い出した。
あの男、この島で繰り広げられる草レースを総なめにしているやつだ。
「だいたいなんで情報屋が現場に引きずり出されなきゃなんないんだよ」
一歩前に出てきた長身が折れて、ラギの目の前に強いカールのかかった頭が降りてきた。
「こいつ――D っていうんだけど、無駄に騒がす癖があってさー。あ、俺ヒューゴ」
ヒューゴはにこりと笑った。

「でさ、手配の状況とか逃走ルートとか、どうしてもリアルタイムで必要になるんだよね」
「そ。だから直接サポートして」
ドレッド頭――D は勝手に皿からポテトをつまみ上げ、もそもそと食い始める。
「ドンパチやってる脇でコントロールとかさ、司令塔とかカッコ良くねぇ?」
「うーん、そういうのホントに得意じゃないと思うんだけど」
そういう荒事が器用な奴、この島には他にもいるだろうに。
「リアルタイムの情報流すだけでいいからさー。一緒に行こうぜ」
なかなかに諦めの悪い交渉相手だ。
「ドンパチ得意じゃないから情報屋やってんのに、前線出させられんのかよ」
「だって、ソレ持ってんだから、一応撃てるんだろ」
ラギの腰の辺りを指差して、D は言った。
右のホルスターに収められているのは、護身用にしては物々しいオートマチックピストル。
使わずに済めば安穏と暮らせるが、時には抜かざるを得ない状況がゴロゴロしている以上、装備だけはしていた。
「……こっちも運転よりはマシって程度だけど?」
「死ななきゃいいよ。自己防衛だけ何とかしてもらえば、あとは俺たちでどうにかする」
「……」
「ま、とりあえず 2~3 件一緒やってみようぜ。相性が悪きゃ破談ってことで」
確かに反りが合うかどうか、こればっかりは試してみるしかない。
「わかった。今暇だし、やってみてもいいよ」
Dの弾いた指が高らかに響いた。
「よし、交渉成立。おーいコケット、こっち!」
声につられてこちらに向かってきたのは、モヒカン頭の男。風体に反して、人懐こそうな顔だ。
「情報屋ゲットしたー?」
「もちろん」
「これで仕事がはかどるねぇ」
さっきまでラギがのびのびと食事を楽しんでいたバーの4人テーブルが、4人の男で埋まった。
何故かしっくりくる。
「で、取り急ぎ仕事ねぇか?」
「何だよ、仕事請けてないのか」
食べ飽きたフライドポテトの皿を、向かいに座ったDに向かって押しやった。そこに伸びてきたのは、別の手。カードを引くようにさらりとポテトをつまみ取る。
「だって振られたら困るからねー」
「コケットはカジノの仕事いいの?」
ヒューゴもさらに手を伸ばす。モヒカン頭はコケットというらしい。
「まぁ、そっちはいつでも行けるからね。あんまりこだわらないよ」
「じゃ、決まり。頼むぜ情報屋」
「はいはい」
仕事用の端末をポケットから取り出して、思い当たる名前を順に繰る。
ああ、シミオン辺りは簡単な車の取り立てくらい持ってるだろう。
得意先には数コールで繋がった。
「毎度どーも。あのさ、今なんか仕事ない? うん、そうそう。請負いたいんだけど」
ポテトを食べつつも、3人が聞き耳を立てているのをラギは感じた。
「請負先のアテ? 今回は俺が直で請け負うよ。何ていうか、その……何だろ。ちょっと臨時で仲間ができたもんで」
えーと、何ていうんだっけ。
こういう請負屋の集団を指す言葉があった気がする。
チームじゃなくて…何だっけか?

すっかり空っぽになったポテトの皿。
ああ、思い出した。

「その仕事、うちのクルーが引き受ける」
こんな風に言い切ってしまって、なんだかんで彼らに引き込まれていたのだった。

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