雛祭りde句⓹
橋本多佳子
🎎古雛をみなの道ぞいつくしき 橋本多佳子
(ふるひいな おんなのみちぞ いつくしき)
ゆとりが出来たら娘のために雛飾りを用意してあげたいと想っていた母親・家庭は多かったと思う。大切に育てられた娘は嫁いでいくとき当然の事として・その雛飾りを嫁入り道具に加えて持っていった。母親が幼い時分から大切にしてきた雛飾りは古びて後も大切に扱われ・子孫へと伝えられていく。その大事な大事な古雛を想い・母親を想いながら詠んだ句のように思う。現実には戦争で家財産を失って日本へ引き揚げてきた人たちは雛飾りを持ちだすことなど出来る筈もなく、何もかもを手放すしかなく身一つ状態だった。
そんな大切な古雛を手放さずに済んだか手放すしかなかったか知らないが、私としてはをみなの道の険しさに思いを馳せるしかない。自分だけの想い出なら子の安全と引換えに手放す覚悟の多佳子で、母の想いが詰まった雛なら、それでも涙を呑んで堪えて手放すに違いない。イザというとき捨てるのは財産だけでない、自分の身も命も子のために使い切って構わないと思っている母親。橋本多佳子はそんな厳しくも潔い女の道の美しさを詠んだのだろう。着飾らせたい・幸せにしたい心が染込んだ古雛に秘められた伝説かも。
「是が私の女の道です」と主張する多佳子の声が聞こえてきそうだ。
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