ハルトカナ/パスワードの人

 9/29のライブにて手に入れたパスワードの人のアルバム「ハルトカナ」。
ライブでは視覚的に驚くパフォーマンスが多かった彼女たちの音源は、単純に言えば、"どポップ"であった。

  基本的にはピアノの和音で刻まれるリズムを軸とした曲が殆どだった。
 歌声から表情が窺えるような"柑橘ポルノ"。男女混声で成される美しいメロディの"いないいないおばけ"や"トミーとミイ"。一見ばらついたような印象を受けるが独特の拍の取り方で不思議にまとまる"死体にキッス"など、一言でポップスといっても多方向から積極的にアプローチされている。

 中でも特筆したいのが6曲目"拝啓:20世紀"。未来を思わせるシンセサイザーの音とインパクトの大きなポエトリーリーディングが特徴の一曲。後半で歌のメロディとポエトリーが重なる部分では、止まった時間に置いてきぼりにされたこの歌の主人公と、勝手に流れていく世間の時間とのギャップをうまく表現している。
 「私、まだ大丈夫じゃない」「20世紀が好きだ。21世紀にはまだなれない。」というポエトリーの2節には鳥肌が立った。私の個人的な経験として、周りだけが勝手に時計を進めて自分だけが止まったような時間を過ごしていたころがある。共感したというと少々大袈裟かもしれないが、この物語の主人公と自分を重ね合わせて泣きそうになってしまった。

 ライブでは視覚的に楽しめるよう工夫を凝らしたパフォーマンスを行う彼女たちであったが、音源だけでも楽しめるように作りこまれた曲たちに情熱を感じた。パスワードの人は2018年いっぱいで無期限活動休止となる。大変惜しい気持ちだが、残りの活動でも人々をあっと驚かせていってほしい。

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