見出し画像

常に優しい光を投げかけ、全てを包み込むかの如く夜空に浮かぶ月。
遠くからいつも変わらぬ表情で見つめる月。
その光は時に優しく、時に冷たく、青白く私を照らしている。
もちろんそれは受け手が己が心情を月の光に投影しているだけで、月が感情を持つが如く光の波長を変化させているわけではない。
しかし、満ち欠けし、日中に薄ぼんやりと青空に白い姿を見せ、新月となって夜に溶け込むこともある。もちろん、夜空に昇らないことだって。

人との付き合いは月と似ているかもしれない。
優しく見守り、支え、そして時には冷たく突き放す。
何気ない距離感に人は己が心情を投影し、一喜一憂し、悩み、浮かれてしまう。
それでも変わらず優しく包んでくれる距離感。
月までの38万キロとは包容力の大きさなのかもしれない。

そんな慈愛に満ちた月だが、私たちは気付かず手の届く近場にある光に吸い寄せられてしまうことが少なからずあるのではないだろうか。
手近な光は、幻惑されてしまった目には一見優しく助けてくれる味方のように見えてしまうかもしれない。
そんな妖の光に魅せられてしまったが最期、誘蛾灯に集まる蛾のごとく焼き貫かれて地に堕ちる運命になるやもしれない。
妖の光が明るく力強く見えたとしても、朝になれば消えてしまう街灯にはあなたを包み込む優しさなぞ無いのは明白である。

日中、明るく輝く太陽に心奪われる時もあるかも知れない。
ガチガチに固まった根雪を溶かし、新たな命を育み、春の芽吹きを促す力強さを欲する時、頼れるのは太陽だけであろう。
しかし太陽はその膨大な熱量で備えの無い者全てを焼き尽くしてしまう。
知らず知らずに焼けてしまった顔に残るサングラスの跡は、いつまでも消えずに鏡の中からチクチクと私の浅はかさを苛んで来るものである。
そして、近づき過ぎるとイカロスの如く翼だけではなく何もかも全てを失うかも知れない。

だからそう。
あなたには月がよく似合うのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?