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栗山巧の通算2000本安打に寄せて

埼玉西武ライオンズの栗山巧が9月4日の楽天戦でプロ野球史上54人目の通算2000本安打を達成した。高卒からプロ入り20年目での偉業達成となった。
惜しくも試合では負けてしまい、同選手の偉業に白星を添えることはできなかったが、記録達成直後には、元チームメイトの銀次郎、同期の中村剛也から花束を贈呈されるなど、西武ファンにとっては嬉しく、誇らしいゲームとなった。

2000本安打とは長いプロ野球の歴史でも僅か54人しか達成しておらず、毎年100安打を放っても20年を要す大きな数字であり、名球会※の入会条件の一つとされている。相手投手を研究し、自身の打撃技術をアップデートし、コンディションを保ち続けることでしか達成できない偉業だ。たった1本すら安打を打つのが難しく、プロでの平均就業年数は僅か8年程度と厳しい世界で、この記録を達成することがいかに優秀かということが伝わるだろうか。

※名球会とは
1978年の設立以来の「社会の恵まれない人達への還元とプロ野球の底辺拡大に寄与する」という目的に向かって「野球振興」と「社会貢献」という2つの分野において、継続した活動とともに社会情勢に対応した新しい活動に積極的に取り組んでいる団体。

入会資格としては、日米通算(NPB、MLBの合算)で以下のいずれかを達成すること。
・投手(通算200勝利以上、もしくは通算250セーブ以上)
・野手(通算2000安打以上)

さて、これまでのライオンズの歴史を振り返りつつ、栗山の偉業を少し具に見て行こうと思う。

■ 流出の歴史                            西武は、80年代~90年代の黄金時代を築くなど、数多くのスターを輩出してきたが、意外なことに生え抜き選手としては栗山が球団史上初の達成選手だ(図1参照)。財政事情が厳しかったパ・リーグの球団において、年俸の高騰化は頭の痛い経営課題であり、西武は特にメリハリの利いた対応をしてきた側面があろう。加えて、一時は経営側と選手側とで大きな溝もあり、選手を留まらせることができなかった面も見逃せない。多くの選手が海の向こうに渡り、耳を疑うような国内球団への移籍が相次いだ。

栗山自身は2016年にFA権を取得し、他球団と交渉するチャンスがあったものの、残留を決断し、ライオンズへの愛情を貫いた。それだけに、今回の栗山の偉業達成はファンにとっては感慨深いものとなった。

【図1:「新卒」での通算2000本安打達成者】

新卒2000本安打達成者

■ 栗山巧とはどういう選手なのか
栗山は、2001年秋のドラフト会議でライオンズより4位指名を受け、兵庫県の育英高より入団した。同期には今もチームで共に活躍する中村剛也がいる(2位指名)。栗山が一軍に初出場を果たしたのは、3年目の2004年のこと。然し、打撃に比して守備や走塁の課題もあり、なかなかレギュラー獲得には至らないシーズンが続いたが、2008年にはついに規定打席に到達。167安打を放ち、同僚の片岡易之と最多安打のタイトルを分け合い、チームの日本一に大きく貢献した。後に2000本安打を達成する選手としては遅咲きで、レギュラー獲得は7年目のことだった。この頃から毎年コンスタントにヒットを量産し、パ・リーグの中でも有数のヒットメーカーとしての地位を確立。ベストナインも外野手で3回、指名打者で1回と計4回獲得している。派手さはなく、侍ジャパン(日本代表)への選出こそないが、「知る人ぞ知る」栗山と言えよう。

図2からも見て取れるように、波という波がなく、怪我や大崩れせずにパフォームできているところは特筆すべきだ。そんな栗山も怪我などもあり、2017年~2018年シーズンは規定打席に到達できず、切り札的な活躍に留まり、安打数が伸び悩んだ。評論家やファンも2000本安打は難しいかもしれないという見方が支配的だったように思う。然し、2019年は開幕から好調を持続し、見事に復活。まだまだ衰えを見せることなく、チームの主軸として背中でチームを引っ張ってくれている。2020年のオフには38歳となるシーズンとしては異例の3年契約を結んだ。ライオンズの誇りである。

【図2:安打数の推移】

安打数の推移

■ 残りのキャリアに望むこと
昨日の記録達成後のインタビューを見ると、大記録を達成した安堵感や感慨深さは正直なさそうだった。寧ろ、本人もコメントして通り、2000本安打は通過点でしかないという印象だ。ライオンズは2018年、2019年とペナントレースを制しながら、クライマックスシリーズで敗退し、日本シリーズに辿り着くことができなかった。更にヒットを量産し、2回目の日本一を引退までに勝ち獲って欲しい。それが「知る人ぞ知る」栗山の価値を更に高めることになるのだと考えている。

■ 番外編 ~次の2000本安打達成者は~
栗山以降の2000本安打は誰が達成するだろうか。現役の1500安打以上を放っている選手を一覧化してみた。栗山と同期の松田はギリギリ行けるかな、中日の大島や楽天の浅村は余裕で達成できそうだな、などと想像してみるのも面白い。

【図3:現役通算1500安打以上達成者】

現役1500安打以上の打者


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