ご自由にお持ちください。

多摩川近くの農家さんの塀に、黒いビニールポットに入った青シソの苗が6鉢並んでいた。「こぼれ種から育った無農薬のシソです。ご自由にお持ちください」
この辺りは、一年中、旬の獲れたて野菜や果物、切り花などが、100円程度で置き売りされているが、「ご自由に・・・」は珍しい。
わが家の小さな庭に自生していたシソは、コロナ禍を経て全く顔を出さなくなった。あの頃はとんでもなく時間があったから、隅々まで草むしりをし過ぎたのだ。ドクダミだけでなく蕗もシソも、あんまり考えずに全部抜いてしまったらしい。
ハーブのように、シソはベランダで育ててもいいかなと思ったが、多分とんでもなく増えるだろう。私の性格上、植物も子育て同様、放りっぱなしで手を掛けないから、おしゃれなベランダ栽培・・・なんて絵に描いた餅になる。とはいえ、目の前のイキイキとしたシソは、私の足を止めて離さない。「頂きますねえ」——周りに誰もいないのに、私はちょっとだけ声を張り上げて、一鉢袋に入れた。
あれから2週間、大きめの鉢に植え替えて、あまり日当たりはよくない庭のビワの横に置いたシソは、虫もつかずに元気に育っている。大雨の後のさわやかな朝、10枚採取した。今年の夏の食卓が、なんだかおしゃれになる予感。

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