ドタキャン

ひと月に1回、タウン誌に医療コラムを書いている。皮膚科クリニックの広告だ。2カ月おきにまとめて2回分の取材をするのだが、院長先生に面会できるのは診療時間が終わってからだから、毎回20時、20時半、ときには21時からとスタートが遅い。しかも、製薬・医療メーカーのMRたちがズラリ待つ間を縫って、実際に話を聞けるのは15分とか20分しかない。まずは先生の愚痴を聞き、「適当に書いてよ」などと軽口をたたかれ、それでもこっちからあれこれ聞こうとすると「もう何回も話した」と機嫌が悪くなる。タウン誌の営業さんは院長先生からえらく気に入られているので、長い期間続いている広告スペースなのだ。医者取材は、理不尽なことも多い。でも私はこれでお金をもらっている身だから、どんな状況になっても文句は言わない、うまくかわしている。
今月は、締切りが迫っているのになかなか取材日が決まらなかった。なのに、当日になってドタキャンをくらった。「先生の体調が悪くなったから今日の取材はなしになった」と営業さんから留守電が入ったのは18時過ぎ。すでに電車に乗っていたから、結局クリニックの最寄り駅まで行ったのだが、営業さんはあたふたと慌てまくっていて気の毒だった。「取材無しで書いてもいいわよ」と、私は言ってしまう。テーマは決まっているのだから、正直わざわざクリニックまで行かなくても、書いたものをチェックしてもらう方が早い。医療ライターが顔を見せてお話を聞く、というセレモニーが大事なのはわかっているが、「過去の記事をみせて、それをベースにどこをどう直すかきいて・・・」と言ってみた。
営業さんは不安がっていたけれど、電話で秘書さんと相談をしながら院長先生に伝えてもらったらしい。翌日修正の言葉を入れた長いメールが届いた。この文章に少しだけ手を入れさせてもらって、原稿を作り上げようと思う。

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