初体験 舟木一夫
友人と待ち合わせた相模大野駅、改札口から私と同じ雰囲気の高齢女性たちが続々と吐き出される。派手ではないが、近所を歩く服装とはちょっと違う。おしゃれ日傘よりも、帽子。ペッタンコ靴のしっかりした足元。これだけの人数がいるのに、整然と前に進み、ワイワイガヤガヤ感はない。この真面目な雰囲気こそが、何十年にもわたって舟木一夫を支えてきたファン共通の姿なのだろうか。グリーンホール13時半開場。大きな公園を通って、人波は巨大な相模女子大の建物に吸い込まれていった。
いったい何曲歌ったのだろうか。休憩なしの一部構成、バックバンドとコーラスと、あとはひとりで歌いっぱなしの2時間だった。歌声が若いころと変わらないのか、それとも劣化しているのかはわからないが、曲を重ねるにつれ、どんどん声にハリと艶が出てきたように思えた。
昭和の青春叙情歌謡、世代ど真ん中の私だから、もちろん知っている歌ばかり。ついノリノリでリズムを取ってしまいたくなるのだが、満員の客席はわぁーでもないし、キャーでもない。ペンライトは禁止、うちわやタオルを振り回すわけでもなく、会場全体が微動だにしないお行儀の良さ。
途中一度だけ「一緒に汗を流しましょう」という声かけに、会場中がスッと立ち上がり、両手をあげてリズムを取り大きく手拍子をする場面があった。それも2曲だけで、舞台上から手をおろす合図があると全員が椅子に沈む。笑いながら「次からは1曲にしよう」と、こういう自虐的なやりとりが一体感を生み出すのだ。舞台上の舟木一夫も客席も、全員が同世代、高齢者だ。
双眼鏡で観ていないから細かい老け模様はわからないが、背筋はしゃんと伸びているし、お腹が出ている様子もない。精度のいい音響装置を使っているとしても、声質も若々しい。この12月には80の大台に乗る人とは思えない。チケットを譲ってくれた人が「毎回毎回元気をもらっているの」と言った意味がよくわかる。私も頑張ろう。少なくとも80までは…、できる気がする。