RIP 立ち上げられた団体たち/塔野陽太
思えば大学に入学した18歳ごろから、僕は謎の団体を立ち上げてばかりいる。
あるときは、後輩らをかき集め、●●●などという創作団体を立ち上げ、オリジナルポストカードの作成に勤しんだ。出来上がったカードを、後輩の一人と連れ立って、商店街に売りに行った。素人が色鉛筆で描いたイラストが売れると素朴に信じていた。
そして、何故か50円で売れた。買ってくれたのは身体の大きい男の人で、怖い顔をしていた。怖い顔の人というのは根は優しいと聞いていたが、本当だった。嬉しくなった僕らは、その優しいお兄さんになんとなく付いて行って、気が付いたらホストクラブの前にいて、体験入店の手順を聞いていた。
我に返った僕は後輩を置いて逃げ、この団体の活動は終わった。活動期間はきっかり二日だった。
それから数年の後、すっかり疎遠になってしまった件の彼がホストクラブの体験入店で30万稼いだと噂に聞いたが、確かめる術は僕にはなかった。
また、あるときは、友人らと芝居をするため、
▲▲▲という演劇団体を立ち上げた。Twitterアカウントなどを作成し運用を始めたが、その名が、同じサークルの先輩が立ち上げた■■■という劇団の名を、低俗な発想と醜悪な思想の元もじったものだったため、その先輩から至極まっとうな怒りを買い、▲▲▲は何の活動もせずその歴史を終えた。
そして、この出来事が関係あるのかないのか、その友人らと芝居をすることはついぞなかった。
また、あるときは、◆◆◆を立ち上げたが、すぐに解散し、
また、あるときは、★★★を立ち上げたが、次第に有耶無耶になり、
また、あるときは、▼▼▼を立ち上げたが、今日までその存在を忘れていた。
それでも、僕はまた、こうやって謎の団体を立ち上げてしまった。
ウィーンガシャン派。結構いい名前だと思う。一応、ウィーン分離派をサンプリング元にしているが、そういうことは自分から言わない方が多分かっこいい。
僕が謎の団体を立ち上げてばかりいる理由はだいたい三個くらいあると思う。
一個目には孤独が怖く、仲間が欲しいからだ。
二個目は、僕が愛した人たちの作ったものを他の人にも見てもらいたいから。
そして、三個目。
たとえ、誰の記憶にも残らなくても、この世界のどこかに(そしてそれは往々にしてインターネットの片隅に)、今僕らが生きているこの瞬間を残したいから。この瞬間の、景色と、匂いと、隣にいる人たちの息遣いを。それは感覚、という言葉で言い換えてもいい。この瞬間の感覚。
以前、これまた僕が立ち上げた◎◎◎という団体で友人らに合わせて百を超えるエッセイを書いてもらったことがある。先日、ウィーンガシャン派を立ち上げるにあたって、改めて読んでみた。
思わず唸ってしまった。それらの文章には当時の瞬間がそれはそれは綺麗に保存されていた。訳もなく苦しかった、殺したいほど誰かにムカついた、長く続かなかったが幸せだった、だるかった、涙が出るほど美しかった、生きようと思った、ただ愛しかった。彼らの感覚の一つ一つが、言葉に変換されて、画面を埋めていた。
彼らの感覚は、彼らのもので、僕の感覚とは違う。同時代を同年代として生きていたとはいえ、彼らが見たもの全てを僕は見ていないし、聴いていないし食べていないし触れていないし嗅いでいない。だけど、誰かの感覚と、また別の誰かと、また別の誰かと、皆の感覚をごっちゃにし、それを遠くから眺めたとき、浮かび上がってくる感覚は、何故だか身に覚えがあった。それは僕がへたくそな日本語で書いていた日記よりもずっと、僕の本当の感覚に近い気がした。
自分で全部感じなくていい、自分で全部表現しなくていい、というのは希望だ、と思った。
今までに、いろいろな団体で作ってきた絵や演劇や文章や映像の中に、誰かの言葉や誰かの動きによって、それぞれの瞬間の僕の感覚が保存されている。迷ったとき、自分の感情や思想がわからなくなったとき、戻ってこれる場所。そこからまた始め直せる場所。団体が作るものはゲームのセーブポイントに似ているかもしれない。
ウィーンガシャン派はきっと、誰にも見つけてもらえないまま、この世から消える。
傍から見れば何の価値もない、時間の浪費に見えるだろう。そして実際殆どそうだろう。それでも、何年か経った後、僕らが遺した言葉を読んで、この時代の感覚を思い出してくれる人が、これこそ自分の感覚だと思ってくれる人が一人でもいれば、それだけで価値があったと言える。
だから、今じゃなくてもいい。いつか、誰か、僕らを見つけてください。
そう願いつつ、僕らはもう暫く、身体を軋ませながら、この行進を続けていこうと思います。
書き手:塔野陽太
テーマ:好きな場所について
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
同一テーマについて、
曜日毎の担当者が記事を繋ぐ
ウィーンガシャン派のリレーブログ。
今週のテーマは『好きな場所について』
明日は「アナコンダにひき」が更新します。
ウィーンガシャン派は11/20(日)文学フリマ東京35に出店予定です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?