【質問箱回答】イラストレーターとしての「方向性」の決め方
いつもご質問ありがとうございます。
今回頂いたご質問はこちらです。
こちらで回答させていただくのはあくまで「私の場合」の例ですが、何かの参考になれば幸いです。
方向性を決める前に、決めるべきこと
まず、方向性を決めるために必要なことはなんでしょう?
実は、私がイラストの方向性を決める時、それ以前にいろいろと考えなければならないことがありました。
①どんな人にイラストを売りたいか
②最もストレスなく描けるタッチはどれか
この二点を、限界まで掘り下げて考えます。
極端な考え方かもしれませんが、好きな絵を好きな分だけ好きなように描いていては、仕事になるわけがない、というのが持論です。もちろん巨匠クラスの方は別ですが、「これから仕事をとってくる」という段階で、そのスタンスではちょっと厳しいよなあ、というのが私の考え方でした。
需要があり、かつ自分に供給できる力があって、はじめて仕事は成り立つはず。
そう考えて、まずは需要と供給のマッチングからシミュレーションをはじめました。
→①イラストが欲しいけどイラストレーターの知り合いがいない人(他に競合するイラストレーターがなるべくいないこと)。SNSマーケティングを実践している企業(実績を拡散できること)。決裁権のある方と直接お話ができる企業(やりとりがスムーズにできること)。
→②時間がかかりすぎるタッチは封印する。作品ごとに法則を考えなければならない、あるいは新たに法則を作らなければならない複雑なタッチでないこと。制作の工程を全て「手順」として整理して把握できるタッチであること。そのタッチに共通する特徴を言語化して説明できること。
→そして、①の人が欲しいと思ってくれるタッチであり、かつ②の条件を満たすタッチであること。これが私のイラストの方向性を決める土台でした。
需要があって、供給に負担のないタッチを作る
これらを考えた時に、全ての項目に当てはまるタッチを、当時の私は持っていませんでした。
当時持っていたタッチは、
左上を除いた、少女漫画系のようなタッチでした。
その三つのタッチは、描くのはすごく楽しかった。しかし、致命的な欠点があり、描くのに恐ろしいほど時間がかかる上に、納得できるまでの描くときのストレスが大きかったのです。加えて、①に当てはまる方からの需要がさほどありませんでした。
ビジネスには使いにくい…
もちろん好きなタッチなので、お仕事になれば嬉しいことには変わりありません。ただ、これを主戦力にするにはあまりにリスクが高すぎました。
需要を見つけるための労力、制作に費やす時間とメンタル、ある程度数をこなすための時間…
健康な人がやるならまだしも、もともとうつ病の治療をしなければならない私には、そんな体力も時間もメンタルもありません。自分に与えられているものは全て有限。限られた中でやりくりするしかない。
そこで、①と②を満たすタッチを考えた時に、左上のタッチが生まれました。現在も、私がアイコンやグラレコなどに使っているタッチです。
これは、比較的短時間で描けてかつ描く工程も完全にマニュアル化できるのでストレスなく描けて、さらにシンプルなのでビジネスにも使うこともできる…
需要が見込めて、かつ自分への負担もなるべく軽くする。
方向性を決める上で、最終的に最も要視したのがその二点でした。
そのイラストを見て、自分のことを思い出してもらえるか?
また、世界観を守るために、自分の中でのルール作りも徹底しました。配色、線の太さ、描くためのペンツールの種類、レイヤーの種類…
ぱっと見て「ああ、〇〇さんのイラストだ!」と分かるように。
自分の手元から離れて世の中に出ていくイラストたちは皆、自分を売り込んでくれる営業マンです。お客様の元に渡っても、そこでずっと自分の存在をアピールし続けてくれます。
定めた方向性は微修正や更新はしても、大幅な変更はブランディングにとってマイナスにもなりかねません。最初にかなりルール作りを徹底して、1ヶ月から3ヶ月ほどかけてルールに調整を加え、最終的なタッチに落ち着きました。
また、ゼロからタッチを作るのはかなりの労力です。なので、自分が「良いな」と思うタッチのイラストを5種類くらい集めてきて、それぞれのイラストの特徴を融合させてながら土台を作っていくのが一番簡単で確実でした。
私にとっての主力のタッチは、このような経緯で生まれたので、「私が好きなタッチを貫く!」というより、むしろ逆。「仕事に使えるタッチを1から構築する」という感覚でした。
ただ、正直最初は「求められたタッチを描ける、オールマイティなイラストレーターであろう」とした時期もありましたが、
えー、結果は惨敗でした。
よっぽどの実力者なら話は別ですが、私のような新米には「なんでも描ける」は「何にも描けない」と同義でした。何かに特化しなければ、全く見向きもされませんでした。
需要過多、供給不足のフィールドを探す
さて、私の当時から胸に留め置いている営業方針は、「とにかく戦わない」です。
というのも、戦って勝てる気がしないからです。だって、世の中に神様のようなイラストレーターって沢山いらっしゃいます。正直、そんな雲の上の方と同じ土俵で戦って、勝てる自信なんて…ないです。
じゃあ、勝てるようになるまで何年かかるでしょうか?5年?10年?いや、もっとかもしれません。もちろん、勝てるようになるまで日々精進するのは大前提として、じゃあそれまではどうするのか?という現実的な問題に直面します。
そこで、私の営業方針は「戦わずに勝てる場所をさがす」にしました。要は、需要があるけど供給が間に合っていない業界を探す。これを徹底しました。
なので、他のイラストレーターさんたちが集まるところ(出版社の募集、イラストコンテスト、イラストレーターを募集している案件など)には行かないで、他の業種の方が集まるところにひたすら営業に行きました。異業種交流会とか。エンジニアさんのイベントに参加したこともありました。
「イラストレーターを探してます」と公言しているところにはイラストレーターさんが集まります。そこで、「まだイラストレーターは募集とかしてないけど、もし良い人いたら良いかもな」と思っていそうな人に対してアプローチをかけました。メディア運営者、自費出版を考えている方、ホームページを作っている方…などなどです。
あと、最近、イラストレーターさんたちは皆さんインスタやツイッターを活用されています。つまり、SNS。インターネット。ということは、ネットに接続するとすぐに競合と出会ってしまう。という発想から、オフラインでの営業にもかなり力を入れました。
SNSでは活動報告をするのがメイン。実際の仕事はオフラインで探す。
というスタンスでやっていたら、どういうことか、実際の依頼の多くはSNSを経由して頂くことになりました。
…なぜ?
それはすごく単純なことで、SNSでガツガツした姿勢はしていても、実際に「仕事募集!」みたいなツイートを毎日定期ツイートで発信、みたいなことはしてなかったんです。その代わりに、毎日リアルで動いてることをアピールしていたように思います。「イベントに行ってきました!」とか。
…これは個人的な意見ですが、毎日にSNSで仕事を募集している人と、実際にリアルで営業活動をしてる人がいたとして。
自分なら後者に発注するかな、と思いました。
後者なら、例え仕事につながっていなくてもツイートを見ている人に対して「動いてる感」を与えます。逆に、前者だとフォロワーさんに「仕事もらえてないのかな」とダイレクトに推察されてしまうのではないでしょうか?
結局、戦わない手段を突き詰めて行った結果、他の方のと差別化ができて、オンラインオフライン問わず、お声かけいただけるようになったのではないか?と考察しています。
イラストを仕事にするときの気持ちの切り替え
なんだかんだ方向性について書きましたが、結局、それまで「趣味」「好きなこと」として向き合っていたイラストを、「お金をいただくためのもの」「誰かの役に立てるためのもの」と認識を切り替えられたのが、一番大切なことだったかもしれません。
そして、例え自分のためではない誰かのためのイラストであっても、そこに愛情とこだわりを注げることこそ、イラストレーターとして大事に持つべき指針なのかもしれないな、と思っています。
かなり偏った考えに基づく回答でしたが、何かのご参考に(あるいは反面教師に)なれれば幸いです。
ご質問、ありがとうございました!
頑張って書いてみました!もし良ければサポートよろしくお願いします!