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YouTube参考資料)ベトナム語基礎講座⑪  君の名はグエンにあらず 家族以外も「お兄ちゃん」「弟/妹」

 フーおじさんのベトナム語基礎講座をご覧いただき、ありがとうございます。今回はベトナム人の名前と人称代名詞について説明します。日本に在留するベトナム人は2021年12月時点で43万人と中国に次いで多く、飲食店や小売店で働くベトナム人をよく見かけるようになりましたね。彼らの名札を見ると「グエン」と書いてあることが多いと思いませんか?グエン(Nguyễn
)はベトナムで最も多い苗字で、全体の4割近くを占めます
。ベトナム最後の王朝、阮朝(1802−1945)に因みます。ベトナムでは「グエンさん」と呼びかけても、多くの人が振り返ってしまうので、基本的に名前(ファーストネーム)で呼びます。彼らが自主的に日本文化に合わせているのか、ベトナム文化を知らずに機械的に苗字を名乗らせている日本企業のせいなのか、原因は不明ですが、日本社会に「ベトナム人=グエンさん」というイメージが定着するのはあまり良いことではないと思いますので、ベトナム風に名前で呼んであげましょう。

ベトナム人の名前の構造は男女で異なる

 上の表を見てください。ベトナム人は男性と女性で名前の構造が違います。あくまでも原則なので例外もありますが、男性は基本3語、女性は4語のことが多いです。女性はミドルネームが二つある事が多く、多くは女性特有のミドルネームThị(氏)が付きます。日本で言えば「陽子」の子みたいなものです。日本同様、新しいスタイルの名前にこだわる人が増え、最近はThịは敬遠される傾向があると聞きます。
 ベトナムではNguyễn(阮)が全体の38.4%を占めるほか、Trần(陳)が11%、Lê(黎)が9.5%、Phạm(范)が7.1%など上位10個の苗字が全体の85%を占めます。ですから、苗字で呼んでも識別できないことが多いので、名前を呼ぶようになりました。

サッカーベトナム代表のNguyễn Quang Hải選手

男性ならAnh+名前、女性ならChị+名前

 ベトナム人を呼ぶときは目上、目下、初対面なのか否かなど身分、立場、人間関係によって呼び方が変わります。最も無難で差し障りがない呼び方が男性ならAnh+名前、女性ならChị+名前です。英語のMr./Ms.に相当します。部下や友達ならば名前の呼び捨てで構いませんが、日本で働いている同僚ならば「名前+さん」と優しく呼んであげることをお勧めします。強い口調で呼び捨てされると、人によっては気分を害する方もいるかもしれないからです。
 呼びかけるときは日本語のように「**さん」と呼ぶのではなく、「敬称+名前+ơi」(ex. Anh Toàn ơi.)と呼びます。ơiは日本語の「おーい」に似たフレーズで、とてもよく使います。発音は私の動画やGoogle翻訳で耳から学んでいただきたいですが、エとオの中間音のような感じです。部下や友人を呼ぶときは「名前+ơi」でいいです(後で説明する目下への人称代名詞emは通常つけません)。

同名の場合はミドルネームとセットで呼ぶ

 ベトナム人は同じ名前の人も多く、その場合はミドルネームとセットで2語で呼びます。最もそれが起きるのが男女ともに人気の名前Anh(英/櫻)です。

  Anhさんが一人の場合ならそのままで良いこともあるのですが、二人以上いることが多いので、通常はミドルネームとセットで言うことが多いです。Anhの他にはLinh(鈴)、Ngân(銀)、Tiên(仙)など人気の名前がミドルネームとセットで呼ぶことが多いです。あくまでも筆者の経験則ですが、女性の方が多いような気がします。

男性名と女性名をどう識別するか

 最初は男女の名前を識別するのは難しいと思いますが、コツは漢越語です。語源を調べれば、男女の区別は付きやすいと思います。例えば男性に人気の名前はVăn(文)、Võ(武)、Hùng(雄)、Long(龍)など男っぽい漢字が多いです。一方女性はLinh(鈴)、Hoa(花)、Thuỷ(水)、Thảo(草)など植物や自然、きれいなものに因んだものが多いです。
 ベトナム人の名前について日本人が解説しているYouTubeのある動画で、「バン」は男性名とベトナム人が言っていた、と話していました。恐らくそのベトナム人は「Vănは男性名」と言う意味で言ったのだろうと思います。Vân(雲)は女性名なので、上の表で書いた通り、Văn Anhさんは男性で、Vân Anhさんは女性なのです。

人称代名詞は人間関係によって変わる

 人称代名詞はI ,You ,he ,sheなど主に人を表す代名詞です。英語も日本語も、1人称、2人称、3人称の人称代名詞が決まっています。しかし、ベトナム語はtôi(1人称)、bạn(2人称)など一部の単語を除き、決まっておらず、相手との人間関係によって1人称にも2人称にもなるのです。

 日本語では年上、目上を表す単語が人称代名詞として機能します。上の例文はいずれも英語にしたら、主語はIかyouになると思います。でも、年下、目下を表す単語は人称代名詞にはなりません。「弟が悪いんじゃないか。」「子供が風呂先に入るぞ。」なんて言いませんよね?ベトナム語ではこういう言い回しをするのです。

家族以外でも「お兄ちゃん」「おばあちゃん」

 ベトナム語では家族以外に対しても、年齢や立場に応じて擬似的な家族関係を作り、それに応じた人称代名詞を使います。例えば30歳の女性が35歳の男性に対して「お兄ちゃん(anh)」と言う人称代名詞を使い、自分のことは「妹(em)」と言う人称代名詞を使うのです。そのanhとemは二人の会話の中で1人称にも2人称にもなるのです。

 上の表を見ていただくと35歳男性が言っているemは2人称で、30歳女性が言っているemは1人称です。この二人はあたかも兄と妹であるかのように、「お兄ちゃんは」「妹は」という立場で話しているのです。I、youと明確に人称を分ける英語などと違い、ややこしい反面、とても暖かい感じがしませんか?兄以外にも、姉、祖父母、父母、叔父叔母、弟妹、子供、孫などさまざまな人称代名詞があり、擬似家族として人称代名詞を選ぶのです。

まずは5個だけマスターしましょう

(注意)ông,bàは最上級の敬称として使われるケースもあります。その場合は「ông/bà+フルネーム」で、若い人に対しても使います。テレビや公式行事などでよくみられます。

 まずは上の表の5個だけ覚えましょう。自分から見て相手がどれに当たるのか、で自分と相手の人称代名詞を選びます。それが決まったら、その人称代名詞通りに擬似的家族として対話します。例えば、おじいちゃんくらいの歳の人だったら、「ôngは元気ですか?emはôngのお手伝いがしたいです。」といった感じです。Iとかyouといった無機質なものではなく、あくまでも擬似的家族として話すのです。
 慣れてきたら、これ以外に重要な人称代名詞が4つ(父母と同世代の人はbác、父母より若い男性にはchú、女性にはcô、幼児にはcháu)を覚えていってください。まずは5個を完璧に使えるようにしてください。
 ベトナム語を覚えるコツは漢越語です。人称代名詞もかっこ書きで書いてある漢字を頭にイメージしてください。
 私も学び初めの頃、人称代名詞に苦労しました。ベトナムで生活し、ベトナム人との会話が増えるにつれ、この擬似的家族の人称代名詞の温かみを感じました。家族や友達を大事にし、誰に対しても長幼の序を弁えるベトナム文化が如実に反映されていると思いました。

*フーおじさんのベトナム語基礎講座⑪君の名はグエンにあらず 家族以外も「お兄ちゃん」「弟/妹」





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