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コーヒー➡コーヒー牛乳➡コーヒー

好きなお笑いコンビがいる。まだメディア出演は少ないがライブシーンを引っ張る実力があり、そしてお茶の間にも愛されるであろう愛嬌まで備えている個人的大注目のコンビだ。

彼らは中学校からの幼馴染で非常に仲がいい。どれくらい仲がいいかというと30を過ぎた今でも2人で同居し、休日は2人で電動自転車を走らせ映画館へ行きフードコートで食事をとって過ごすのだ。主語さえ聞かなければただの中学生カップルのデートである。

そんな2人はただ洋菓子を食べたり、新作のマックを食べたりするだけのYouTubeチャンネルをやっている。前述したとおり彼らはまだテレビなどでの出演機会があまりないので当然知名度も低い。そのためそのYouTubeチャンネルがアップしている動画の視聴回数もそれ相応の残念な数字になっている。至極当然である。彼らを知らない人からすればそこにアップされているのは「仲の良いおじさんが楽しそうにお互いを笑わせ合っているだけの動画」に過ぎないのだから。

それでも自分は彼らのYouTubeチャンネルが大好きだった。明らかにビジネスとしては成り立ってはいないが2人が他愛のない事で楽しそうにしている様子を見ていつも癒されていた。外野には向けていないがファンには深く刺さる楽しいチャンネルだった。

ただ、1カ月ほど前からYouTubeの雰囲気がガラリと変わった。それまでの外野へのフックが全くと言っていいほどなかったチャンネルから一変し、人気芸人の写真をサムネイル画像に入れたり、親交のある人気芸人に電話をかける企画など、ファン以外からの関心を引くための工夫がされるようになった。YouTubeチャンネルの運営としては効果的なテコ入れだろう。実際、そのテコ入れに効果があったことを視聴回数が証明している。喜ばしいことだ。自分の応援しているコンビに注目が集まり始めたのだから。

でも心の底から嬉しがることはできていない。自分は彼らの漫才が大好きでそこから徐々に彼らのことが好きになり、彼らの良さが満載の動画たちを好きになった。他の芸人のYouTubeチャンネルにはない彼らだけの良さがそこにはあった。

しかしそれが今回のテコ入れで変化しつつある。テレビにもよく出ていて人気のある芸人たちの名前を出す。見たことあるような「YouTube企画らしい」動画を量産していく。彼らの独自性は弱まり、それに反比例して大衆受けする柔らかさを手に入れていく。そんな過程をたどり、大衆にとって見やすく受け入れられる平凡なチャンネルへと生まれ変わっていくのだろう。それが「売れる」ということなのかもしれない。大衆がその魅力に気づくまでその独自性を主張し続けるのか、痺れを切らして大衆の気を引こうと行動するかの2種類の売れ方があるのだろう。果たして彼らが「売れた」そのとき、自分はその「売れた彼ら」を愛することができるだろうか。

ここまで捻くれた捉え方をして悲観的な表現ばかりしてはいたが何もそんなすべてが最悪ってわけでもないことは頭では理解している。たしかに自分が好きだった彼らの純度100%動画はこの先撮られなくなりその純度は年々薄まっていくのかもしれない。だがそれは彼らがこの先も芸人として生活していく、自分たちファンの前で漫才をし続けるため、売れるために必要な手順なのだ。これはファンが愛する「彼らの独自性」と「大衆が受け入れる面白」の妥協点を探す作業と言える。そのいい塩梅が見つかったとき、彼らの良さが引き出された、一部ではなくみんなが楽しめるコンテンツが出来上がっているはずだ。

そうして彼らが「売れた」その先で、世間から受け入れられた彼らはまたもう一度あの頃のような動画、やりたいことを始めればいい。自分が真にやりたいことをやるためにはそれをやらせてもらえるだけの地位、評価を獲得しないといけないのだ。

何事も目先のことばかりではなく、それを続けた遠い未来のことにまで視野を広げて考える冷静さが必要だなぁとコーヒー片手に彼らのリニューアルされた動画を見て思った。苦みが強すぎる、牛乳を足してみよう。

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