旅館の中番・仲番(なかばん)の仕事内容を紹介【お皿の管理・準備編】【#4】

リゾートバイトでは旅館やホテルで働くことが多いのだが、旅館の裏方業務には中番、あるいは仲番(読み方はいずれも「なかばん」)という職種がある。中番おそらく旅館の調理場にしかない職種で、洋食のレストランにはない。

中番の仕事内容は旅館によって異なるのだが、基本的には以下の通りである。

①お皿や器類の管理

②調理師が盛り付ける前のお皿や器の準備

③盛り付けが終わった料理を冷蔵庫などで保管

④調理場から各部屋に料理を運ぶ

一言で言うと、調理をして盛り付ける調理場と料理をお客さんに提供する仲居、そしてお客さんが食べ終わって下げられた料理を洗う洗い場の三者の間で全体が効率よく働けるように雑用を何でもする係である。この説明だけだとまったくイメージが湧かないかもしれないが、一定規模以上の旅館でもしも中番がいなければ調理師や仲居の負担がそれぞれ20~30%(僕の体感だが)ほど増えてしまうぐらいである。

中番部署としては調理部に属することが多く、調理師や仲居、洗い場とコミュニケーションをとることが必要不可欠である。なお、同じ職場内の別の部署同士では本来上下関係などはないはずであるが、中番は調理師や仲居をサポートするというその仕事内容が地味であり、専門的なスキルも必要なく、さらに仕事内容の特質上俗にいう陰キャ(陰キャラ)が比較的多いことなどから調理師や仲居に少なからず下に見られるということがよくある。

ただし、中番が優秀かそうでないかによって調理師や仲居の働きやすさに大きく差が出るのでもちろん重要な役割を担っているといえる。また、部署同士でいざこざが起きないために調理師や仲居などと円滑にコミュニケーションを図ることも重要である。

これは余談ではあるが、中番は力仕事も多いため男性のみの旅館が多く、9~10割が女性である仲居とカップルになる者も多い。中番と仲居は仕事中のコミュニケーションが大事であり、また話す機会も多いため、暇な時間に雑談をすることも多いからである。


文字だけで中番の仕事の説明をするのは簡単ではないが、この機会ぐらいしか書くことがなさそうなのでできるだけわかりやすく説明していく。需要は少ないであろうが、これからリゾートバイトをしようと思っている人に少しでも参考にしてもらえばいいかなあ。


①お皿や器類の管理

旅館の料理、いわゆる会席料理は料理の数が多い。とても多い。しかも、前菜などでは3~4種類の猪口(ちょこ)や小鉢に1つの料理をわけて盛り付けることも多いし、なべ料理や鉄板で焼く肉料理、お造りなどではそれぞれの取り皿や調味料用の小皿なども必要である。

これらの細かい皿や器を調理師あるいは仲居が用意するのは効率が悪いので、中番がすべて用意する。

また、高級旅館などでは毎月、安めの旅館でもシーズン毎にメニューが変わるため、そのたびに器を変えなければならない。例えば、夏ではガラス製などの涼しげな器が多く使われるし、秋は茶色系や落ち着いた赤系だったりもみじが描かれた器などが使われる。

大きな旅館ではしばらく使わない器を保管するための倉庫があり、季節ごとに器を入れ替えることもよくある。このように皿や器の管理は中番の仕事の1つである。

②調理師が盛り付ける前のお皿や器の準備

↑で説明したように①の器の管理は月ごと、あるいは季節ごとの仕事なので毎日するわけではない。毎日の仕事で中番の中心的なものの1つは皿の準備である。

すでに説明したように、旅館の会席料理では1人当たりたくさんの料理を提供するため、当然その分だけ器も用意しないといけない。

よくある旅館の会席料理の献立(こんだて)の例は以下の通りである。

・前菜

・造り

・椀物(わんもの)

・合い肴(あいざかな=たいていは肉料理)

・焼き物(焼き魚)

・蒸し物(茶わん蒸し)

・炊き込みご飯

・赤だし

・デザート

これで9種類である。小規模な旅館では1日あたり50名ほどの宿泊客だったりもするが、ホテル型の大規模な旅館(150~200室ぐらい)では400~最大で600人泊まることもある。

つまり、調理師は600人分の前菜、お造り、肉料理などをそれぞれ盛り付ける必要がある。効率よく盛り付けるためには事前に前菜のお皿やお造りのお皿を人数分用意しておく必要がある。

調理師は調理師免許などを持っているなど技術や経験がある職種なので、そういう人たちに大量に皿を並べるだけの単調な仕事をさせるのはもったいないし、何よりも効率が悪い。そこで皿をひたすら並べる中番という職種が必要になるのである。


例えば、今日が11月2日だとして午後3時以降のチェックイン時間になったら600人のお客さんが来るとする。その場合はその日の午前中、あるいは前日の午後にすでに600人分の前菜、お造り、肉料理などのお皿を用意しておくのである。

お皿を並べるのはお盆だったり、お盆のような形をした鉄板だったりする。こうすることで600人分の夕食の盛り付けが始まる11月2日の午後までにすべての皿がお盆や鉄板に並べられているのである。

お皿の並べ方も決まっていて、効率がいいように仕組みが作られている。

例えば、前菜を盛り付ける長方形のお皿があるとして、お盆に並べる場合はお盆に縦4列横5列の20枚乗せられるとする。このお盆を30枚用意すれば20×30=600なので、600人分の前菜のお皿を用意することができる。

肉料理を盛り付ける丸いお皿は1枚のお盆に15枚乗るのだとすれば、お盆40枚分用意すれば15×40=600で600人分を用意することができる。


すでに説明したように1つの料理でも2~4種類ほどのお皿を用意することもあるので、実際には献立の数以上に用意するお皿の種類は多い。

さらにやっかいなのは、旅館には通常3~5種類のコースが用意されているので、宿泊客が600人だからっといって単純に600人×各献立に必要なお皿を並べるだけではない。

例えば、600人のうちAコースを食べるお客さんが100人、Bコース300人、Cコース200人とする。Aは一番高く、Cは一番安く、Bはその中間といった感じだ。

この場合はAはB、Cと前菜が違って高級な前菜なのでお皿も当然違うが、BとCの前菜は同じだということがある。さらに、お造りはAとBとCでそれぞれ別々で、デザートはBとCは通常だがAは通常のデザート+もう一品ということがある。Aは炊き込みご飯もB、Cと違うが赤だしはA、B、Cすべて同じだったりもする。

文字で説明しても何のことかわからないかもしれないが、これまでを整理すると中番として用意する器の種類と数は以下の通りとなる。

・前菜: 高級 100人分、普通 500人分

・お造り: 高級 100人分、普通 300人分、安め 200人分

・デザート: 高級 100人分、普通500人分

簡単に説明するとこのようになる。つまり、1つの献立に対して必要なお皿の種類と数が異なるのである。さらに、この中からアレルギーのお客さんやベジタリアンのお客さんがいれば特別にメニューを変えることになる。例えば、エビアレルギーのお客さんがいる場合はお造りのエビを別のものに変えるので通常のお造りのお皿を1枚減らす、といった具合である。

さらに、小学校高学年以上の子どもは前菜、お造り、肉料理などは大人と同じだが焼き魚は食べないのでその分お皿を減らす、といったこともある。妊婦さんには食前酒やアルコールを使ったワインゼリーなどをアルコールがない別の料理に変える。高級旅館では料理長がお客さんの予算内で特別に献立を作ることもある。

このように、中番は毎日の宿泊客のすべてのコースの人数や特別メニューの人数を把握し、それぞれのメニューに応じてお皿を用意するのが重要な仕事である。誰でもできるといえば誰でもできる仕事であるのだが、まったく頭を使わずにできるものではなく要領が悪い者、頭の回転が悪い者はどうすればいいのかまったく理解できないということもよくある。


文字だけで中番の仕事内容を説明するのは難しいのでどれだけわかってもらえたかはわからないが、何となくでもいいのでイメージしてもらたのならうれしい。

次の記事では中番の仕事の「③盛り付けが終わった料理を冷蔵庫などで保管」と「④調理場から各部屋に料理を運ぶ」について詳しく説明しようと思う。

(づつく)

Atsushi

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