城崎での初出勤の流れ【午後編】【#3】

午後は15時出勤だったので、10分ほど前には着替えてタイムカードを押した。厨房ではすでに調理師が夕食の盛り付けを始めていたので、「おはようございます」と大きな声であいさつをしたが、誰も返さなかった。

派遣先によって異なるが、リゾートバイトや飲食店経験者の間では和食の調理師は愛想が悪いとか口下手とか、コミュ障(コミュニケーション障害)とか言われていることが多いし、僕もその傾向は強いと思う。長くても数か月程度しか働かない派遣のアルバイトが一人入ったところで誰も気にしないのだ。


旅館の調理師や中番など夕食の準備をする部署は15時か14時30分頃から午後の仕事を始めることが多い。これぐらいの時間から夕食の盛り付けを始め、16時30分か17時頃に盛り付けを終える。盛り付けが終わったら中番は各パントリー(食器室)に料理を運ぶ。

仲居が出勤するのはだいたい16時頃で、各部屋のお客さんの数だけ小皿や調味料用の食器などを用意するなどして自分が担当する部屋の料理の準備をする。

例えば、旅館に泊まって19時から夕食を食べる場合でも魚の造りの盛り付けは実は3時間ほど前に終わっているし、なべ料理の野菜などはその日の午前中に盛り付けが終わっているのだ。


僕が城崎で働いた旅館は小規模だったので、中番の社員は主任のOさんと若手のWさんの2人だけだった。それからアルバイト契約として朝僕に仕事を教えてくれたTさん、さらにNOMOベースボールクラブというのクラブチーム(独立リーグや実業団チームとは違い、給料や年俸は一切発生しない)で野球をしている人たちが3人いた。

NOMOクラブの人たちは朝は野球の練習があるので働くことはなく、午後からアルバイトで働いていた。城崎のあちこちの旅館でアルバイトをしているNOMOクラブのことについては別の記事で詳しく書くことにする。


僕が午後に出勤すると、NOMOクラブのFさんという人が忙しそうに働いていた。身長は180cmぐらいでがっしりとした体格の20代前半の若者だった。僕はFさんにあいさつして、午後の仕事を教えてもらった。

中番の午後の主な仕事は調理師が盛り付けた料理にラップをかけて冷蔵庫に入れたり、部屋ごとにわけたり、各部屋の炊き込みご飯や赤だしなどをパントリーに運ぶことだった。まあ、とにかく地味な仕事なのだが、接客も調理もやりたくなくて裏方業務を希望した僕にはうってつけの仕事だった。

17時までに夕食の盛り付けが終わると、夕食が始まる18時までは次の日の朝食や夕食の準備をする。例えば今日は11月1日だった場合は11月2日の朝食と夕食の準備を同時にすることがあるので、仕事の流れがわかるまでは今自分がしている仕事は何なのか、何のためなのかすらわからないこともよくある。


18時になるといくつかの部屋で夕食が始まる。だいたい19時30分ごろまでは調理場から仲居がいる部屋の前まで料理を運ぶのが中番の重要な仕事だった。僕の旅館は小規模だったので調理場の冷蔵庫にお造りなどの冷たいものを保管し、仲居が中番に電話をかけて「101号室のお造りお願いします」などと言われたら指定された料理を運ぶのである。

お盆に乗せて料理を運ぶだけなので、本当に誰でもできる仕事。慌ててお客さんやほかの従業員とぶつかったり、料理をこぼすようなことさえ気を付ければいい。

一番下っ端である僕はとにかく自分から率先して料理を運び続けた。この旅館は部屋の名前は数字ではなく花や木などの植物の名前をつけていたので部屋の名前と場所の規則性はなく部屋の場所を覚えるまでに少し時間がかかったのだが、基本的には通路は一本道なのでうろうろしていたらそのうち目的地の部屋を見つけることができた。部屋の前まで料理を持ってきたら仲居に「お造りお持ちしました」などと言って渡せばよい。


初日にして「この職場はよくないかもなあ」と思うことがあった。7時を過ぎた頃からは料理を運ぶことが減ってきて少し暇になるのだが、そうなると主任のOさんとNOMOクラブのメンバーでジャンケンをして、負けた1人が勝った人たちからデコピンをされるというくだらない遊びをしていた。

僕はまだ初日で他の人たちとそんなことで遊ぶほど仲良くなっていなかったので参加しなかったのだが、仕事中に他の部署の人たちも見ている前でそんなことをしている非常識さに呆れた。NOMOクラブのメンバーは楽しいからする、したいからするというよりかは上司であるOさんに逆らえずに仕方なく参加しているようにも思えた。

僕は「ああ、こういうのに参加するようになったら嫌だな」と思いながら白けてくだらない奴らを見ていた。


旅館の夕食は遅くとも20時までには最後のデザートが出ることが多く、すべての部屋にデザートを届けたら中番の仕事はほぼ終わりだった。すべての仕事が終わるとタイムカードを切って従業員食堂でご飯を食べ、着替えて寮に戻った。あとは寮にある風呂に入って寝るだけだ。次の日も5時出勤なので早く寝た。

(つづく)

Atsushi

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