A.N.ホワイトヘッドの文献リスト 入門から修士一年目まで

 哲カレさんで担当している、『科学と近代世界』読書会で、入門書に関するご質問をいくつかいただいたので、卒論や修士での研究を考慮に入れつつ、ここに簡単にまとめていこうと思います。いま完成形を作るというよりは、今後少しづつ文献や説明を増やしていく感じにしたいと思います。

*入門
・中村昇『ホワイトヘッドの哲学』
 海外にも入門書はいくつかありますが、ここまでわかりやすく噛み砕いた入門書に、これまでのところ出会ったことがありません。名著です。はじめの一冊は本書がいいと思います。

・中釜浩一「ホワイトヘッド」、『哲学の歴史 8』
 『哲学の歴史』の第10章です。ホワイトヘッドの生涯、中期の自然哲学、後期の形而上学が簡潔にまとまっており、ホワイトヘッド哲学の全体を見渡すのにいいと思います。

・ホワイトヘッド「社会進歩の要件」、『科学と近代世界』
 『科学と近代世界』の第十三章です。『科学と近代世界』の雰囲気をつかむのにいいと思います。ただ、本章の主張の論拠は、それ以前の章ですでに論じているため、省かれています。なぜそのような主張ができるのか、と消化不良を起こしてしまうかもしれません。噛み応えのある食事後の、軟らかく甘いデザートを先取りしていると考えて、読んでみてください。ただ、本書は入手が困難な状況です。

・ホワイトヘッド『数学入門』
 本書を入門として紹介している方は少ないのではないかと思います。ですので、私の趣味が少し入っているのかもしれません。自然哲学以前の著作ですので、ホワイトヘッド哲学の内容は書かれていませんが、彼の思考の動きを体験するにはいい著作だと思っています。『数学入門』というタイトルですが、「数理物理学の歴史」に関する記述を通して、数学に入門する、という形になっています。つまり、数学という抽象的な秩序が、物理現象においていかに見いだされ、両者がいかに結合されていったのかを、歴史的に辿った数学の入門書です。彼は、抽象的な秩序(自然の秩序を含む)を確信しているのですが、この秩序から具体的な事実が導かれるとは思っていません。ホワイトヘッド哲学に通底している、その秩序と事実との観察における合流という考え方を、本書において、比較的容易に垣間見ることができるのではないと思います。

・有村直輝『生成の美と論理 ―ホワイトヘッドの形而上学―』
 研究書なので、入門書として紹介するのは憚れるのですが、論述が丁寧なのと、ホワイトヘッド哲学を幅広く論じているのでここで紹介させていただきました。講義録に関する最新の研究もフォローしており、ホワイトヘッド入門一歩前、として非常におすすめの本です。


*全体像
・V. Lowe "Alfred North Whitehead: The Man and His Work”
 ホワイトヘッドの伝記です。彼自身の発言や、彼の身近な人物へのインタビューなどを通して、ホワイトヘッド哲学の背景を浮き彫りにした労作です。現在のホワイトヘッド研究においても、重要な文献です。ホワイトヘッドの生涯を論じる多くの文献は、本書を参照しています。文章はわかりやすく、卒論でも充分に扱えると思います。ただ、ホワイトヘッド哲学の内容に関しては、あっさりとした記述です。すべて読む必要はないと思うので、自身の研究に関わるところから読んでみるといいと思います。おそらく、多くの方は第二巻の扱う年代(1910-47)が必要になるのではないでしょうか。
 修士一年目に何を読んだらいいかわからなかったら、本書(それか講義録に関する論文集)の気になるところを読んでみるのがおすすめです。
 以下のリンクは、上が2巻、下が1巻です。

・ヴィクター・ロー『ホワイトヘッドへの招待』
 上の本において詳しく論じていなかった、ホワイトヘッド哲学の内容を初期から丁寧に論じた労作です。文章はかなり難しいです。ホワイトヘッド研究をするとなったら、ずっと付き合っていく文献だと思います。無理せず、卒論などで論じる個所のみ読むという読み方でもいいと思います。

・I. Stenger "Pencer avec whitehead"
 後に紹介するルイス・フォードの読解方法(そのときになかった用語をもちいて、それ以前の著作を読解してはならない)に従って、ステンゲルスはホワイトヘッド読解をしております。『過程と実在』におけるカテゴリーによってホワイトヘッドの文章を捻じ曲げて読解していないので、はっとさせられる指摘が非常に多いです。ホワイトヘッドの著作を中期の自然哲学から精読したいという方におすすめです。しかし、非常に難解なので、修士の長期休みなどに、読む範囲を決めるなどして読むのがいいと思います。ドゥルーズに関する言及も多いので、その辺が気になる方もどうぞ。

・入門レベルよりやや難しいですが、Stanford Encyclopedia of PhilosophyとInternet Encyclopedia of Philosophyも全体を把握するのにおすすめです。Deeplなどの翻訳機能でざっと読むのもいいと思います。


*中期の自然哲学
・藤川吉見 「訳者あとがき」、ホワイトヘッド『自然という概念』
 ホワイトヘッド自然哲学の全体像に関しては、『自然という概念』の「訳者あとがき」がよくまとまっていて、おすすめです。ただ、自然哲学の諸著作の間にも発展がある(特に対象論)ので、『自然認識の諸原理』の改定後の注を確認しておいた方がいいです。

・N. Lawrence "Whitehead's Philosophical Development"
 ホワイトヘッド哲学内部に発展があることを洞察し、用語の細かい変化を丁寧に論じた労作です。中期自然哲学から『過程と実在』の直前まで扱っているため、こちらもここに分類するのはおかしいのですが。文章は難解ですし、議論も細かいので、全体像を把握するには向いてないです。自然哲学に関して、新しい視点がほしくなったらどうぞ。


*『過程と実在』
・J.B. Cobb "Whitehead Word Book"
 『過程と実在』の用語集です。ホワイトヘッドは書きながら考えている、など、序文にはたくんさん面白いことが書いてあります。とても短いですし、『過程と実在』を読むとなったら、こちらにざっと目を通しておくといいと思います。

・D.W. シャーバーン 『過程と実在』への鍵
 『過程と実在』は一つの体系で書かれているわけではないのですが、『過程と実在』のカテゴリーの最終形に関する文章を『過程と実在』からとり出したらこうなるよ、という本です(シャーバーンの意図は違うようですが)。ホワイトヘッド研究における論争に関する指摘もあり、重宝すると思いますが、どこを参照すればその論争を調べられるのか書いてないのが残念です。巻末に用語集もあり、とてもおすすめです。

・ギフォード講義の公式サイト
『過程と実在』はギフォード講義という連続講義で論じた内容を、大幅に加筆した著作です。

・『過程と実在』の全体をより詳しく論じた研究書
 このような研究書はたくさんあると思うので、何を読もうか悩むと思います。それに関しては、以前Stanford Encyclopedia of PhilosophyかInternet Encyclopedia of Philosophyに詳しく載っていたのですが、いつの間にかなくなっていたので、そこで紹介されていたものを、ここにいくつか挙げておきます。講義録研究によって、『過程と実在』の解釈も変わっていくでしょうから、『過程と実在』を深く研究するとなったら、そのことも視野に入れて研究しておくといいと思います。あくまで個人的なスタンスですが、この項目は、現在のホワイトヘッド研究において優先順位が低いと思っているので、詳しい説明は他の項目を書き終えたあとにしたいと思います。


*ホワイトヘッドと思弁的実在論
・飯盛元章『連続と断絶 ホワイトヘッドの哲学』
 ホワイトヘッドと思弁的実在論を論じた研究書です。ホワイトヘッド論も非常に明晰で、かなりおすすめです。両者の関係が気になった方はまずこちらから読んでみてはどうでしょうか。巻末には用語集もあり、『過程と実在』を読解する際も心強いと思います。


*講義録研究
・B.G. Henning & J. Petek "Whitehead at Harvard, 1924 - 1925"
 2017年より出版され始めた新資料(講義録)に関する論文集です。渡米後から、『科学と近代世界』あたりまでの期間の議論です。研究をはじめたばかりだと、講義録研究を難しく感じてしまうようですが、基本的に、これまでの定説が何であり、新資料の研究によってそれがどう変わったのか、という感じで講義録研究は論じているので、古い文献を読み漁って気になる分野の研究史を追うより、こちらから読んだ方がかなり手間が省けると思います(もちろん、そのような過程も大切ですが)。修士一年目で何を読もうか困ったら、本書(か、先ほど挙げたLoweの著作)を読むのをおすすめします。

・J. Petek "Unearthing the Unknown Whitehead"
 最も新しい講義録研究書です(2023年2月現在)。講義録研究をすると決めたらこちらもどうぞ。

・L. Ford "The Emergence of Whitehead's Metaphysics 1925-1929"
 現在の講義録研究の多くは、本書の批判によって成り立っているようなものなので、こちらも読んでおくといいです。第八章の一ページ目と、序文と第一章を読んでおくと、何となく全体を把握できるのではないでしょうか。新資料が出版される以前の著作で、当時入手することのできた講義録を用いて、渡米後から『過程と実在』までのホワイトヘッド哲学の発展を論じた本になっています。ホワイトヘッドの著作内部(著作間ではない!)にいくつかの層(発展)があることを主張した重要文献です。現段階の講義録研究の結論は、フォードの結論はだいたい当たってるが、推論が誤っているというものです。(先ほどのStengersの著作で言及した文献です)

・新資料です。計六冊出版予定です。

以下、今後追加予定の項目です。

*ホワイトヘッド研究のための雑誌や情報
*ホワイトヘッド哲学の背景(哲学史)



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