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俳句の鑑賞《57》


落葉の柄とびだしてゐる氷かな

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.120

季語:氷(晩冬・地理)

作句や、鑑賞にまだ不慣れな読み手の場合、一番に目に飛び込んでくる「落葉」(季語:三冬・植物)に焦点が合い、赤い落葉だろうか、それとも黄色い落葉だろうか、などと想像を巡らせるかもしれません。

ですが、直後、葉っぱそのものではなく、その「柄」に焦点が移ります。恐らく、柄は茶色。
すると、その柄が、「とびだしてゐる」というのです。どこから?と思った瞬間、「氷」というもうひとつの季語が現れます。(そうか、氷から柄が飛び出しているのだ、と理解します)

そしての着地は、「かな」の詠嘆。その効果もあって、読み手はもう一度、上五の「落葉」に戻り、ぐっと目線を引いて、句の全景を改めて鑑賞します。

なんと「氷」が際立つことでしょう。落葉の柄が出ている氷の部分から、広い全面の氷へ視点が移り、そして、その周りの景色、気温、なども感じ取ることができます。

読み手の目線を、スローモーションで表現してみましたが、これこそが写生句の感動、と私は思います。


蝶とまり蝶より白くシャツ乾く

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.121

季語:蝶(三春・動物)

恐らく、シャツにとまった蝶は、紋白蝶。普通に、宙を飛んでいるときには、紋白蝶の白さは、かなり目立ちます。
ですが、その蝶が止まったのは、干されているシャツ。
しかも、蝶の白よりももっと「白くシャツ」が「乾く」のだと。

注目は、白シャツ乾く、でなく「白シャツ乾く」という措辞。
確かに、白という色、特にコットンは、濡れているときよりも、乾いたときの方が白さが際立つように思います。恐らく、日の光をしっかりと反射するからでしょう。
何気ない一風景のようでありながら、非常に繊細な観察と感覚、と思います。


カーテンのつつむ雨音二月尽

津川絵理子句集「夜の水平線」P.134

季語:二月尽(初春・時候)

厳しかった寒さも少し緩み出す、月の尽きる頃、厚手のカーテンの向こうから雨の音が聴こえてきます。
寒さのあるうちの雨は、所謂、氷雨、という冷たさを纏いますが、このころの雨は、乾燥した空気を緩めてくれる、暖かな印象の雨も増えてきます。

そんな柔らかな雨の印象は、「カーテンのつつむ」という優しい措辞から生まれてくるのでしょう。


缶蹴りの影ぱつと散る夕桜

津川絵理子句集「夜の水平線」P.135

季語:夕桜(晩春・植物)

缶蹴り、という遊び、確かにひとりが缶を蹴り上げたとたん、皆が一斉に四方八方に飛び散ります。その様子を、「影ぱっと散る」と、影の描写での措辞。

恐らく、満開の桜のある公園に、夕陽が射しこんできているのでしょう。缶を気にしつつも、あちらこちらに目を向け探るオニの影もまた、徐々に長く、濃くなっているのかもしれません。
子どもたちを優しく見守る、大人の目線をも感じられます。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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