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俳句の鑑賞④


青林檎山越えの荷に加へたる

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.7

季語:青林檎(晩夏・植物)

山越え、恐らく、しっかりとした装備の登山と思います。
折り畳みテントも背負っているかもしれません。大きな重そうなリュックが見えます。
その荷の最後に加えられた、青林檎。
酸味の強い果肉が、いずれ訪れる身体の疲れを癒すのでしょう。

目線の先には、これから挑む山の稜線も見えるようです。「たる」の断定に、作者の登山への決心も感じられます。
ふと、上高地を思いました。

青林檎、その果実も、漢字の見た目にも、非常に爽やか。
その季語の力をとても感じる御句です。


噴水の力を解く高さかな

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.8

季語:噴水(三夏・生活)

勢いよく噴き上がっていく水、そして、トップに達した後、急激に力を失って落下する水。
そんな噴水の様子が「力を解く高さ」で見事に表現されます。また、「かな」の詠嘆がひと筋、ひと筋の水を際立たせ、再び上五に戻って映像が繰り返されます。

「解く」に感じられる、ぴたりと嵌る動詞の力って素晴らしい。
このような躍動感あふれる一物俳句を、詠めるようになりたいものです。


近付けば雪渓暗き眼をひらく

津川絵理子句集「夜の水平線」P.12

季語:雪渓(晩夏・地理)

夏山登山、雪渓といえば「白馬の大雪渓」が浮かびます。
そして、「暗き眼」はほぼ間違いなく「クレバス」のことでありましょう。

村上主宰の「青林檎」の一句目は、もしかしたら、この雪渓に挑んだのかもしれない、とふと思いました。

登山、山歩き、等に詳しい方の御句と思います。
雪渓の白、そして、囲む夏山の緑、青い空、雄大な自然の景であります。


碑文いま影を失ふ油照

津川絵理子句集「夜の水平線」P.12

季語:油照あぶらでり(晩夏・天文)

「油照」漢字の見た目からしても、暑い。
ですが、太陽が照り付けるのではなく、風のない薄曇りでの、じっとりとした暑さのことであります。

上五中七からわかるのは、それまでは陽があたっていたということ。「いま」が非常に効いていて、まさに「その時」を詠んだのでありましょう。
石に掘られた文字の影がなくなり、次にどのような景が広がるのか、と思った矢先の、油照。
当たっていた陽の暑さも相まって、じりじりと暑さが迫ります。

碑文は、何に描かれているのでしょうか。そして、慰霊碑を思いました。
となると、「影を失ふ」の終止形にも、詠み手のお心が表れているようでもあります。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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