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企画「忘れられないあの人」 紫乃セレクト



残された毛玉ふわりと秋の風




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秋の風(三秋)
親季語:秋風

秋に吹く風のこと。
秋のおとずれは風が知らせるものだった。
見た目はまだ夏でも風の音に秋の気配を感じとった。

新版・角川大歳時記「秋」より抜粋


開け放していた部屋の窓。
そこから、吹き込んで来た風に、ふと秋を感じた主人公。
暑かった夏の日々のあとに、ほんのちょっとの安堵と安らぎを感じる瞬間。
だらだらと過ごしがちだった、それまでとは違って、幾分丁寧に部屋の掃除をしてみる。

部屋の片隅、毛の塊がふわふわとしている。
近寄ってみると、ああ、、、
これは、あの子の毛玉じゃないか。

私の前からいなくなってしまった、あの愛しい子。
想い出すと苦しいから、心の隅に追いやっていたのかもしれない。
でも、風が、この毛玉と一緒に、あの楽しかった日々をも届けてくれた。

そっと、その毛玉を両手で覆い、額に当てる。

優しさと、少しばかりの哀しみを、秋の風が届けてくれた。


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御句だけに向き合ったときの、私が想像した世界でした。

そして、チズさんの解説を拝読。
ほぼ、同じ景が広がりました。

漢字とひらがなのバランスもよく、ふわり、のオノマトペ優しく効果的。
そして、何にも増して、上五の「残された」が生き生きとした景を読み手に与える、絶妙な動詞でした。

奇をてらわず、ゆったりとした雰囲気を纏った御句。

紫乃セレクトとさせていただきます。

チズさん、詠んでくださってありがとうございました。

また、今回の企画「忘れられないあの人」へ、参加くださったみなさま、ありがとうございました。
重ねて御礼申し上げます。

いただいたサポートは、次回「ピリカグランプリ」に充当させていただきます。宜しくお願いいたします。