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俳句の鑑賞㊲


全集といふも一巻冬鷗

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.73

季語:冬鷗(三冬・動物)

今、ちょうど手元に「山上樹実雄全句集」があります。「全句集」と言いつつ、「一巻」のみです(笑)。これはたまたまの余談ですが、「全集といふも一巻」何とも言えぬ可笑しみを含む措辞であります。
同時に、その全集への作者の親しみや、近しさをも感じられます。

季語は「冬鷗」。読み手である私にとっての冬鷗は、わりと身近な種類の冬鳥(特に、東京・隅田川の鷗)。いつも飄々と日々の暮らしを楽しんでいるような印象。そのために、余計に面白みが余韻として残りつつ、作者もまた飄々と全集を楽しんでるように思えます。


伊勢海老の髭の先まで喜色あり

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.74

季語:伊勢海老(新年・動物)

伊勢海老のあの髭、立派です!
重箱の一段目の中心に頓挫していれば、テーブルを囲む面々が、それぞれに髭をしげしげと眺めていることでしょう。
そして、その様子を含め「喜色」と形容したところに、意表を突かれました。幸せで和やかな家族でのお正月。

本日の二句は、纏う可笑しみが醍醐味だと思います。


街角に星を売る店火恋し

津川絵理子句集「夜の水平線」P.89

季語:火恋し(晩秋・生活)

「星を売る店」の措辞が非常に詩的であります。実際には何を売っている店なのでしょう。そのまま受け止めれば、星にも見えそうなアクセサリーの露天商。ですが、もしかしたら、読み人にとってだけの「星」かもしれません。

冬も間近な火が恋しくなるような夜(の景が私には浮かびました)、売り子もお客も、ともに家が、そして人が恋しいのかもしれません。


ハロウィンの星の出ている交差点

津川絵理子句集「夜の水平線」P.89

季語:ハロウィン(晩秋・生活)

本日は、二句目も「星」。今度は、ハロウィンの夜であります。
夜空を仰げば、瞬くような星の出ている澄んだ空をもった交差点。その交差点には、ハロウィンの夜を楽しむ仮装の少年少女たちが集まっていることでしょう。

別の読み方をするならば、あの渋谷のスクランブル交差点も思い浮かびます。仮装をしているあの若者たちそのものが、星のようなのかもしれません。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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