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春ピリカグランプリ応募作品

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2023年・春ピリカグランプリ応募作品マガジンです。
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#創作大賞2023

【小説】桜貝(春ピリカグランプリ2023)〜麻子、逃げるなら今だ‼︎〜スピンオフ

小説【麻子、逃げるのは今だ‼︎】 全話収録⤵️  麻子は物心ついた頃から母に手を繋いでもらった記憶がない。 2年も経たないうちに弟が生まれたのだから致し方がないことだと幼心に我慢していた。  幼稚園の検査で斜視が疑われ、当時としては珍しかった小児眼科へ母と出掛けた。 弟を祖母に預け、幼稚園を休んで母と二人きりということにどきどきしたのを覚えている。 初めて母を独り占めできることに興奮していたのだろう。  弟が居ないのに 「もう、お姉ちゃんだから」と母は手を繋いではくれなかっ

こゆびくんと赤い糸

こゆびくんのご主人は、 とっても怖いおじさんでした。 ある日おじさんは仕事を失敗して、 おやぶんにこゆびを切られました。 ドンッ コロコロコロコロ こゆびはコロコロころがって、 手足が生えて、 こゆびくんになりました。 おじさんはこゆびくんをおいかけたけど、 こゆびくんは怖くてにげました。 たどりついたのは、おじさんがうまれたおうち。 でも、もうそこはあきちでした。 こゆびくんは泣きました。 うまれたおうちは、もうありません。 こゆびくんはおじさんと ずっといっ

ソンカラク

 真っ新な部屋に言葉がやってきた。  礼儀正しく楚々とした振る舞いの美貌の言葉たちの後から、葬列の付き添いのような顔をして粛々と訪れた言葉たちは最初は一様に寡黙だった。影法師のように曖昧で薄っぺらな彼らは先般出ていった言葉たちではなかったかと訝しく思いながらも私は彼らを招き入れた。今度こそハートの女王のお茶会に出席できるぐらいの礼節と機知を身に着けてきたに違いない。  しかしやがて美貌の言葉たちは存在が希薄になり、春の淡い雪のように消え始め、連中だけが残った。  ああまただ