マガジンのカバー画像

春ピリカグランプリ応募作品

104
2023年・春ピリカグランプリ応募作品マガジンです。
運営しているクリエイター

#恋愛小説

【ショートショート】ハートのジャック

「本当に綺麗な指だね」 そう言いたいのをぐっとこらえて、薫は目の前に集中する。落ち着いた雰囲気でも、ダイニングレストランは賑わっていた。 「…では、この中から好きなカードを1枚引いて下さい」 薫は、迷うことなく真ん中のカードを引いて渡す。 「はい、あなたが選んだカードはハートのジャックですね?」 「はい」 「では、このカードに魔法をかけます!」 佐藤君は、カードを裏返し大げさに念力を込める。 「ではカードを裏返してください」 薫がカードを裏返すと、カードはスペードの9に変わ

貸し出し中?いえいえ、予約中です。(小説)

中学の卒業式の日。進学をきっかけに好きな人と離れることになり、私は告白をしようとした。けど待ち伏せた場所に彼は来なかった。公園でベンチに座って俯いていると、ランドセルを背負った男の子が目の前に立った。 「みーちゃん大丈夫?お兄ちゃんが何かした?」 「ゆうくん」 思わず私は苦笑する。 「かなとに会えなかった」 「うちに来ればいいじゃん」 「それじゃ意味がないっていうか」 「何それ」 ゆうくんはかなとの弟だ。そして私がかなとのことを好きだということをいち早く見抜いた。バレ

『花火があがる日』【#春ピリカ応募】

夏の風物詩に、2人で出かける日が重なったのは偶然だったか。 浴衣を着る機会は、小学生の夏以来なかった。 マサくんは、ずっと私の3歩先を歩くような人だった。 学年はひとつ上だし、スポーツの趣味が合うわけではないし、家が近所でもない。 それなのに何年かに一度、私たちは顔を合わす日があった。 最初は、小学校に上がる前、私はランドセル選びで商業施設を訪れていた。どうしてもランドセルの背中の部分が気に入らず、両親が何度代わりの商品を見つけてきても、気に入ったものに当たらなかった。