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仮名や英字、奇妙な図形や流線が節操ない色で光り踊る、夜。 郁にすれば、異星の街。 その店の硝子扉をひらく。 幾何学模様のモザイク壁、艶めく橙の革椅子……最奥には、ピアノ。 客はスーツの膨らんだ男ばかり。煙草と酒に澱む彼等には、乳白の地にあわく杜若の咲く袷を着た清らな訪問者は、それこそ異星人に映ったろう。 店にもう独り、又別の星からの女。 ピアノに撓だれる歌。数多のカラーピンで纏められた要塞の如き黒髪、ゴールドのコンタクトの眼、裸より淫靡なスパンコールドレス…… ……そし
妹の指は丸い。 赤ん坊のように膨らみがあり、ぶよぶよしている。脂肪ではない。動かすことがないので、浮腫んでいるのだ。 不自由なのは右手だけで、健常である左の指はそうではない。五歳の子に相応しい長さと器用さを備え、そちらであればピアノを弾くのに支障はない。 「お兄ちゃんとレンダンしたい」 何がきっかけか、急に妹はそう主張を始めた。僕と同じ教室を選び、同じ先生に師事。当然ながら演奏できるのは左手のみで、通常僕らが右でなぞる主旋律を、妹はそちらで辿々しく鳴らす。 次の発表