見出し画像

【短編小説】最期に見たい景色。

これはとある大学院生のカナルのお話だそうな。


カナルは足を引きづりながら考えていた。

何時間たっただろうか、私は一体いつまで歩いているのだ。周りに誰もいない。
何も食べていないので、お腹が減っている。人間はエネルギーがないと体が動かない、普段では気づかないようなそんな単純な原理が今身に染みて分かる。

いや、エネルギーを摂る前に水だ。胃への通路は唾一つなく乾ききっている。今ならラクダの様にいくらでも飲めるだろう。どんな水でも風呂上りのビールより旨いに違いない。

そう思いながら歩いていると、目の前に小川が流れている、私は助かったのだ!周りは誰もいない、いやそんなことを考えるより前に私の口は川に飛び込んだ。

ジャリジャリ

私はびっくりした、乾ききった口の中に砂が、大量の砂がなだれ込んできた。手で川を触るも砂の感触だ。なんてこった、私は疲れすぎて幻覚でも見てしまったのか。もうダメなのかもしれないな。

倒れそうになる中、遠くに昔ながらの飲食店があるのが見えた!ハハハ、こんなにはっきり幻覚が見えるんだな。

そうして、その場に倒れこみそうになった時、私は驚いた。飲食店に人もいるじゃないか!わずかだか声も聞こえる!幻覚じゃない!

私はすべての力を出して走った。無我夢中で走った。5歳児のように全力で走った。もう少しだ。声もとっくにでない、100mが何キロに感じるだろうか。

ついに、辿りついた!私は気づいてもらうために背中をむける飲食店の人の肩を叩こうとした。しかし、

私の手が肩をすり抜けたのだ、その時察した、これは幻覚であり幻聴でもあったのか。察すると同時に私は力が抜け倒れこんだ。

人生こんなところで終わるのか、地元の牧場、好きだった冷麺、学生時代の寮、初詣の八幡宮…誕生から順にいろいろな走馬灯が走った。あの時恋の願いじゃなくて色んなお願いしとけばよかったな…

倒れこんだ時に耳み違和感が…手で確認するとヘッドフォンの感触だ!私は思わず笑いだした。
「そうだ、私は観光地の体験でVRゴーグルとヘッドフォンをしていたんだ!!だから幻覚幻聴だと思っていたのか!」

なんて滑稽なんだろうか。一生話せる笑い話になるな。
でも、おかしいなまだ走馬灯が止まらない。VRゴーグルも外した時、目の前の景色が視神経に入ると同時に走馬灯の記憶が現在にたどり着いた。


そうだ、ここはサハラ砂漠だ。私はサハラ砂漠観光ツアー内でVRゴーグルとヘッドフォンで緑が生い茂るときの過去のサハラ地域を実感していたのだ。そこで、砂嵐に襲われ頭をぶつけたような…

しばらく目の前の暗黒な砂漠地帯を眺め、最後の力でVRゴーグルをもう一度かけた。




数日後のニュース
『サハラ砂漠中心地でガイドの遺体が発見されました、同行していた日本人観光客は依然行方不明の模様です。なお、警察は砂漠地帯の為、捜査は困難になる旨発表しております。』

物語はフィクションです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?