![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/116798883/rectangle_large_type_2_0e3547a8ff3c1db3a5a7c38e72ee45d5.jpeg?width=1200)
テロワールに真正面からこだわる蒸溜所”ウォーターフォード”へ#3
ーーー2023.9.15ーーー
今日はウイスキー蒸溜所とビール醸造所を巡ります。アイルランドに着いて1日2箇所巡るのは今日が初めて。スコットランドのように蒸溜所が密集している訳ではないので、1日に複数箇所効率的に巡るのは難しそうです。1日に何箇所も行かない方が、しっかり見学できていいですが、、
ということで、まず向かうのは『ウォーターフォード蒸留所』
![](https://assets.st-note.com/img/1694889283383-ttuf5IDfff.jpg?width=1200)
ここは2015年にアイルランドの南部にあったギネスビールの工場を改修してできた蒸留所。その名のとおり、ウォーターフォードという街にあります。
この蒸溜所はかなり異色で、アイルランドにあるにも関わらず、蒸留回数は『2回』というスコッチの伝統製法を貫いています。テロワール(麦の産地や特性)にも強くこだわっていて、ボトル裏のコードを公式サイトに打ち込むと、農場や樽の情報がずらりと表示されます。こんな蒸留所はどこにもありません。
アイリッシュシングルモルトと謳っているとおり、原料の大麦は100%アイルランド産。
一体どんな蒸留所なんでしょうか。では早速行ってみましょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1694889953678-tNPA28EXkX.jpg?width=1200)
今いるコークからバスに乗り、およそ2時間ほどで到着。今回は珍しく特にトラブルなく目的地まで辿り着きました。
![](https://assets.st-note.com/img/1694889953734-eractfClej.jpg?width=1200)
話は変わりますが、昨日、クロナキルティ蒸留所の近くで安いスーパーがあったので、そこでサンドイッチとバナナを購入。それはまた今日の夜に食べることにし、ウォーターフォードではローカルなカフェでご飯をいただくことにします。
行こうと思っていたカフェの前に行くと、ちょうどお店の方が入口で黒板に今日のメニュー書いていました。挨拶すると、何にする?とすこぶる元気に声をかけられます。びっくりするほど元気です。ずっとコミカルな動きをしながらハイテンションを保たれています。
黒板のベーコンレタストマトサンドイッチ、略してBLTが目に入ったので、そちらを注文。かなりボリューミーで、朝ごはんですが今日のメインディッシュの気分に。もちろん美味しくいただきました。
![](https://assets.st-note.com/img/1694889954234-RrSicNHEFv.jpg?width=1200)
さて、お腹も満たされたことなので、ウォーターフォードへ向かいましょう。蒸留所は川に面した街中にあります。
![](https://assets.st-note.com/img/1695193750239-QYWfGYYvH2.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695193979151-dpx4eTUuOM.jpg?width=1200)
川に面した壁にはシルボルカラーの青でダイナミックにウォーターフォードと描かれています。シングルモルトと書かれているとおり、この蒸留所では発芽した大麦を使用。
![](https://assets.st-note.com/img/1695193979878-3YkZINzD5F.jpg?width=1200)
ツアー開始時間少し前に到着しましたが、門が開いていません。通れそうな道もないなと思っていると、インターホンから連絡する仕組みでした。セキュリティが万全です。
![](https://assets.st-note.com/img/1695193981552-B2ySpODNCv.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695193983192-JOoilrPYz3.jpg?width=1200)
スーツケースとリュックを持って受付に行くとはつらつとしたスタッフの方が、荷物はそこに置いてもらえれば!と案内してくれます。
![](https://assets.st-note.com/img/1695193985352-rchXWkdaFd.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695193985660-dVVW4kKhyv.jpg?width=1200)
この建物は元々はギネスビールグループの醸造所として使われていたそうです。この工場が安値で売りに出されていたところを買取り、今はウイスキー造りを。ちなみに設備は当時のものがそのまま残っていたそうで、一部は今でも使われています。その一つにハイドロミルというものが…これはまた後ほど。
では時間になったのでツアー開始
![](https://assets.st-note.com/img/1695232532026-fFI6SmacFL.jpg?width=1200)
まずは左側の建物から見学していきます。こちらの建物は昔の設備がそのまま残されていました。
![](https://assets.st-note.com/img/1695232647902-mT0uxHNFtJ.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695232649328-8q9PDiBPhg.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695232650417-VtNf0r74Pg.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695232652020-61FflevFUB.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695232655396-UBH1OESUc5.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695232656529-oZ17Yu9AnN.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695232658083-vojf842L5q.jpg?width=1200)
ウォーターフォードの蒸留責任者には、この工場でむかし働いていたネッドさんが採用されたそうです。醸造責任者には、ネッドさんの元同僚であるニールさんが。かつてここで働いていた方が、また造りに携わっていることは素晴らしいですね。
では次はウイスキーを造っている建物へと移りましょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1695276966096-XOKoIbxv0l.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695278004436-1VpuIuDC6i.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1695278006071-0yDgjtFbod.jpg?width=1200)
ウォーターフォードは、テロワール(麦の産地や特性)にも強くこだわっています。畑の場所や生産者によって大麦の品質も違うため、それぞれの個性を活かした造りをしようと。そのため、畑ごとに大麦を分けて手配しています。非常に手間がかかる…
ボトル裏にあるコードを公式HPに打ち込むと、農場や樽の情報がずらりと出てくるので、ぜひ調べてみてください。
![](https://assets.st-note.com/img/1695278007533-tDMnl8I9XG.jpg?width=1200)
精麦も、当然畑ごとに分けて行っています。
![](https://assets.st-note.com/img/1695277818485-Y27Sjjf3nq.jpg?width=1200)
ここからがさらに驚きです。なんと、ウォーターフォード蒸留所のモルトミルは、ハイドロミルという見たことがないものを使っていました。水中で回転するミルによって、一般的なモルトミルよりも細かく麦を粉砕できるそうな。この時点で麦に水が含まれるので、ここから糖化の工程が始まっているとも言えます。
そしてまだ驚きは止まりません。なんとここにはマッシュタン(糖化槽)が無いのです。マッシュタンが無い蒸留所なんて見たことがありません。一体どういうことなんでしょうか。その理由は下画像のマッシュフィルターにあります。
![](https://assets.st-note.com/img/1695284498816-NTDn5ja2R4.jpg?width=1200)
なんとこのマッシュフィルターが糖化槽の代わりを果たしているんです。普通はマッシュタンで糖化させた後に、ミリングの際に荒く砕いた大麦の外皮や粉が槽の底に溜まっているので、重力で麦汁がそこを通り取り出されます。
しかしここウォーターフォードでは、マッシュコンバージョンと呼ばれる容器で糖化された後、このマッシュフィルターを通って麦汁を取り出す。大麦の外皮などの代わりをしているんですね。
このおかげで、濾過の為にあえて荒く粉砕していた麦もその役目を果たす必要がない為、細かく粉砕することができ、麦汁の収量が増え、さらにはグラッシーなアロマも取り出すことができるそうな。
テロワールを大切にしているウォーターフォードにとって、大麦の個性を余すことなくウイスキー造りに活かせる、願ったり叶ったりの設備なのではないでしょうか。言ってることとしてることが一貫されています、かっこいい。
![](https://assets.st-note.com/img/1695284499358-u1GJExh5ZE.jpg?width=1200)
では次は発酵の工程へ。同じ部屋で行われています。
![](https://assets.st-note.com/img/1695387026935-PKtA6n9OYw.jpg?width=1200)
どれが発酵桶なのか分かりませんでしたが、材質はステンレス製で容量は10万リットルのものご4つ。発酵時間はなんと120時間という長さ。最終的なアルコール度数は8~9度。
それぞれの農場のバッチ毎にブレが出ないよう、8時間毎にphやアルコール度数などをチェックしているようです。徹底されていますね。
では次は蒸留の工程へ
![](https://assets.st-note.com/img/1695387624609-kmGquh5CC4.jpg?width=1200)
ウォーターフォードで使われている蒸留器は、なんとアイラ島のブルックラディ蒸留所からやってきています。というのもウォーターフォードの操業に尽力しているマークさんが、ブルックラディを復活させた人物のひとりだから。テロワールにこだわっていることにも納得です。
ポットスチルの加熱方法は、天然ガスによる蒸気熱で、冷却方法はシェルアンドチューブ式。
![](https://assets.st-note.com/img/1695387626129-SQZ09keJv7.jpg?width=1200)
ちなみにこのスチル、ブルックラディの前にはインヴァーリーブン蒸留所で使用されていました。ローランドにあったこの蒸留所は、主にバランタインの原酒を提供していましたが、残念ながら1991年に閉鎖。インヴァーリーブン蒸留所で使われていたもう一つの変わったスチル(ローモンドスチル)は、今もなおブルックラディ蒸留所でジンを製造する為にせっせと働いています。アイラのジンで有名な”ボタニスト”を生み出しているんですね。
![](https://assets.st-note.com/img/1695387627677-xj6HokKDUn.jpg?width=1200)
この管理室はもともとギネス工場だった時からあったそうで、ここから見れるようにポットスチルは宙に浮かせた状態。
![](https://assets.st-note.com/img/1695387630911-fnIXXwgPCU.jpg?width=1200)
製造工程の見学はここまで。熟成庫はここから離れたタラモアの海辺にあるそうで、今回は見れませんでした。が、面白いイラストがあり、へえそうなんだと新しい発見が…
![](https://assets.st-note.com/img/1695392701302-OoBC2X7qXU.jpg?width=1200)
なんと屋根と壁の繋ぎ目に、少し隙間を空けているんです。海からやってくる潮風がここを通り、倉庫で眠るウイスキー達に何かしらの影響を与えそう。
他の蒸留所の倉庫も同じようになっているのでしょうか…僕がこれまでお邪魔した蒸留所では、このような説明は無かったので、今回かなり驚きました(他の蒸留所で英語を聞き取れなかっただけかもしれませんが…)
では最後にテイスティング
![](https://assets.st-note.com/img/1695392702518-DWvc0RptYK.jpg?width=1200)
今回は3種類をテイスティング。どれもやはり麦の穀物感があり美味しいです。これから長い熟成のものが出てきたら、一体どんな味わいになるのか…楽しみで仕方がありません。
ウォーターフォードに来た時に質問してみたいことがあったので、ツアーの最後に聞いてみます。そらはピーテッドタイプの”フェニスコート”というボトルについて。
以前、購入させていただいたボトルなんですか、ピートの感じが他のボトルとは明らかに違うんです。なぜそうなるのかを尋ねたいと以前から思っていました。
聞いてみると、、ターフで麦を乾燥しているからよと答えが…ターフとはなんでしょうか、聞いたことがありません。尋ねると、これよと写真を見せてくれました。
![](https://assets.st-note.com/img/1695392704070-ti3IABZcnQ.jpg?width=1200)
どうやら泥炭のことらしく、アイルランドではターフと読んでいるそうな。”芝”という意味もありますが、こちらでは泥炭のことを指します。
泥炭を炊いていることは知っているので、なぜ独特な味わいになるのか聞くと、そこまで泥炭を炊いていないからと、、たしかにもう一種類のピーテッドタイプのものは、スコッチに通ずるピート感がありそちらはヘビーピート。そのボトルに比べるとフェニスコートは穏やかですが、それだけが原因ではないと個人的には思いました。使われている大麦に原因があるのか何なのか、ウイスキーは分からないことが沢山あるので面白いです。
ではスタッフの方にお礼を伝え、ウォーターフォードを後にします。
![](https://assets.st-note.com/img/1695392705806-qSc7TMUxNn.jpg?width=1200)
昨日のクロナキルティもそうでしたが、アイリッシュウイスキー蒸留所見学は、知らないことが山ほどあって非常に面白いです。
ここまで3箇所ウイスキー蒸留所を巡りましたが、次に今から行くところはビール醸造所。この醸造所はなんと、現存するアイルランドのブリュワリーの中で一番古いらしい。そんな歴史あるところに足を踏み入れられることに胸を躍らせながら、またバスに乗り込みます。そして、クロナキルティ蒸留所近くで買った今夜食べる予定のサンドイッチとバナナをそのバスの中に忘れて帰りました。
つづく
↑香川県琴平町で小さなバーを営んでいます。ふらっとお越しくださいませ。
素敵なウイスキーライフをお過ごしください🥃