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読書日記#16 アンドロイドとサイコパス。共感に伴う感動と絶望は紙一重。

10月◎日

ほんの少し昨日のお酒が残っている。
寝る前は朝イチでコンタクトを買いに行くんだと、張り切っていたんだけど、全然起きられない。

それでもなんとか午前中の受付に間に合うように家を出る。

行きの電車でしっくりくる本が見つからない。悲しい。

最近は刑務所で読書会を開く「プリズン・ブック・クラブ」を読んでいて20%くらいのところ。なんだかいかにも翻訳です、という感じの文体が今の私の感覚にしっくりこない。

ただ、自分と全く生き方の違う人の心に響く本を探すというテーマは面白い。人によく本を薦めることがあるのだけど、本当に感覚が違っていて、びっくりする。

逆に薦められてすごくよかったこともなかなレアな体験。

最初に思い出すのは小学校の頃の友達との本の貸し借りのやりとりだけれども、あの頃は心が柔軟だったからどんな本もぐっときていたなー。もう少し年齢が経ってから、でいうと。

高校生の時に恩田陸さんの「麦の海に沈む果実」を薦めてもらったのはその後の読書人生にとても大きな影響を与えられた。貸してもらって読んだけれどその後、ハードカバーで買って今も本棚のスタメン。

あとは松田青子さんの「おばちゃんたちのいるところ」は大人になってから高校の頃の友達に薦められて読んで、これは絶対に自分では発見できなかったと思った本。松田青子さんの本の中で今のところベスト

それから三島由紀夫の「仮面の告白」。10年くらい前にお近付きになりたい人に薦められて読んだけど、三島由紀夫氏に惚れ込む人々がいる理由がわかった気がしてよかった。結局いろいろあってその人とはもう会ってないけれど、薦められた本だけはまだ私の中に残っている。そういうのもまたいとをかし。

当然、この2冊も本棚のスタメンに存在し続けている。

パッと思いつくのはそのくらい。
勉強になった本、考えさせられた本、役に立った本はあるけれど、心の琴線に触れるレベルでリアル友達推薦本で素晴らしかった物語はとても貴重だ。

コンタクトで眼科の検診を待つ間は、「人はなぜ物語を求めるのか」を読んでいた。これもまだノってこない感じ。でもずっと読み途中だから年内には読み終えたい。

視力測定の結果、今のコンタクトでは0.2しか見えていないことがわかる。コンタクトの度数が3段階も上がり、視界が良好に。
まだ10日分は前のがあるのでよく見える日々はしばらくお預け。
今日、目が見えるうちに何がしたいかなーと思う。

お昼を食べて、カフェに行って、考える。

そうだ、映画にいこう

四畳半タイムマシンブルースが見たかったことを思い出した。
本を読んでから行こうか迷っていたけど、行こう。

四畳半タイムマシンブルースは読んでないけれど、四畳半神話体系は小説も読んでアニメも観たし、コラボしているサマータイムマシンブルースの映画も観てるからきっと楽しいだろう。

急いでチケットを取る。

席は7割くらい埋まっていて、なかなかの人気のようだった。

映画は1人の方が都合が良いことが多い。

1人ならつまらなくても自己責任だし、感動しすぎてもそれを見られて恥ずかしい心配もない。

一方、友達から誘われるのは、作品との予期せぬ出会いになる可能性があるから割と好き。

とはいえ、そんなことはどうでもよくて。とにかく映画。
映画館といえばポップコーン。この前1人でみたときは、我慢したけれどやっぱり食べたい。
夕飯控えめにすることにしてポップコーンのSサイズを買う。これも友達と行くとキャラメルになっちゃうけど1人だとカップにもりもり塩味でいただけるから幸福度が高い。

映画の方は、テンポがよくて、プロットもよくて、アニメーションもよくて、アニメ映画としてとてもよかった。
ペンギン・ハイウェイのようなハートウォーミングではないものの、随所で笑えるし、原作の小説やアニメのエッセンスがきちんと反映されている

エンディングのアジカンに、高校時代の思い出がフラッシュバック。実は中村佑介さんのイラストには苦い思い出があるけれどこれはまたどこかで。

うきうきでプログラムまで買ってしまった。

森見さん、また「恋文の技術」とか「ペンギン・ハイウェイ」レベルの最高の新作出してくれないかなー。

10月⭐︎日

よく眠ったなーと思って目覚める月曜の朝。
羽毛ぶとんでぬくぬくしながら、自分のほっぺたに触れる。
顔の保湿強化月間で、少しだけ化粧品をいつもよりプラスしているので、起き抜けの肌の潤いがいい感じ。ふにふにしっとりと柔らかい。

朝から「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の続きを読もうとするけれど、難しくて頭に入ってこない。
ポストアポカリプスの社会で人間とアンドロイドの違いに苦悩するアンドロイドハンターの話。目が覚めている時に読めば、熱中できるくらいにはハマってきた。古い本なのにとても現代的なテーマで、それに対する考えも決して「今は昔」という印象にはならないからすごい。

朝の支度。バナナとプロテインを食べて飲んでいたら、上司に呼び出されてオンラインで話す。

直近のごはんで一緒にいた女の子が落ちない口紅の付け方のための試行錯誤を熱く話していて、結果3種の口紅&リップを重ね付けしていることがわかって、感動すると共に自身の至らなさを痛感

昨日、3種重ね付けは無理でも「リップ→口紅→ティッシュオフ→リップコート」くらいはしようと思って買ってきた化粧品を使う。唇も潤って冬場は特にこれは良さそう。

朝の支度で最近、よく見るお気に入りのゲーム実況はダンジョンエンカウンターズ。

マップのマスを埋めながらイラストでしかないキャラクターを使ってバトルして、ダンジョン深く潜っていくという、すごくシンプルなゲームなんだけど、シンプルゆえに想像力が掻き立てられるし、ゲームシステムがよくできていて、改めてゲームの多様性を考えさせられる。作業中に見るのに基本音だけでも楽しめるのもちょうど良い。

移動中の電車では「本物の読書家」を読む。
まだ冒頭だけれども、あるページに自分の髭を一本一本貼り付けていったらしい髭だらけの奇妙な本の話にドン引きしつつも夢中で読んでしまう。

この後の展開が気になる。

10月◆日

昨日早く寝たおかげで良い目覚め。

目覚めるまでまた「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を読む。ラスト1/4まできて、いよいよかなり面白い。

著者の描くアンドロイドは共感能力がない。
人間と同じように振る舞っていてもどこか不自然になる。
一方、荒廃した地球の人間は虫1匹にすら異常に愛着と共感を覚える。本物の命を希求している。

けれど困ったことに人間はアンドロイドにすら共感してしまうから、そこにつけ込まれてしまう。それは時に命を失うことにつながる。けれどそのアンドロイドをつくったのは人間なんだということも残酷。

ただこれってそのままサイコパスの話に置き換えられると思った。

共感能力が著しく低いながらも頭脳明晰なサイコパスは、共感する周りの態度を上手に真似ながら、周囲を自分のコントロール下に置いていく。

前職でサイコパスな上司がいた私には痛いほどわかる。
人事部長でもあった彼は全社利益を考えているように振る舞って優秀、という評判を得て、巧みに私の感情に働きかけて疲弊させてくる一方で、本人はそういった感情を身をもって理解できていない。

彼を理解しようと、「サイコパスの真実」を読んで、何を頑張ってもダメだと悟った

極め付けに、

「もう立ち直っていると思っていました」

この一言を聞いた時に、私は、この人とわかりあうことは永遠にできない、と思ったんだよなーと不意に思い出した。

ダークな気持ちを振り払うかのように起き上がって掃除機をかけ始めた。心が整う。
掃除機をかけたあと、こんなにも爽やかな気持ちになるのに、なぜ掃除を始める前はこんなに面倒に感じるんだろう。

あっという間に午前中が終わろうとしているので、慌てて支度をして家を出た。

シェアオフィスで買ったばかりのPCで編集作業。
アイコンがわかりづらくて最初は戸惑うものの慣れてくると体感5倍くらいのスピードで編集が進む。

ポカポカした陽気。なのに、私の心は少しざわざわする。

Podcastを編集していると、自分の考えを聞いて、それと対立する話を聞いて、いかに自分が小さな穴の中で、ああだこうだと不安を口にしながら、うじうじしているのかを実感する。

ひとまず東京23区内でもいいから、地図にダーツを投げてささったところの物件を探してそこに移り住んで、新しい人間関係を築いて、暮らしを再構築するみたいな、そんなことを本当はやってみるべきなんじゃないのか。

誰かの影響で、とかじゃなく、自分の意志でそういう生き方を選ぶことが、本当に私が向き合うべき自由と孤独なんじゃないか。

もう2年くらいそんなことを考えている。

夕方にジムへ。
引き続き「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」の終盤。いよいよ、まとまって立て篭もる残り3人のアンドロイドを追い詰めるところまで辿り着く。

マーサー教という謎の宗教がここにきてとてつもない存在感でせまってくる。話に少しついていけなくて、ググって考察を読むなどする。

ジム終わりも歩きながら続きの、いよいよラスト数ページを読む。
耳にはイヤホンをつけて音楽。目には携帯のKindle。ふらふらと歩く。よくないと思いつつ、やめられないとまらない。

感情に振り回される人間の苦しみと喜び。仕事を果たしたのに途方もない敗北感と無力感で絶望するリックの思考に自分の色々が重なる
私の仕事は特に、感情の機微を大切にすべきシーンが多いと思うのだけど、そうはいっても振り回され続けるのは辛い。

でも、こんなふうに現実には存在しないリックに心を寄せてしまうのも人間の性で、それゆえに読書体験はこんなに豊かにもなる。共感にまつわる感動と絶望は紙一重のところにある。

そして遂に読み終わる。

ちょうど家に帰るための最後の橋に差し掛かったところ。

こういう終わり方なのか。あらすじは読んで知っていたけれど、いざ読むとやはり全然胸に迫るものが違う。めちゃくちゃクールだ。全く古びない秀逸な展開。

SFって最初はなかなか馴染めないけどわかってくると一気に引き込まれて、結局人間の普遍性とか考えさせてくるのがくせになる。

この作品がサイバーパンクの始祖なのだとしたら、さらにその世界観を強固なものとしたという「ニューロマンサー」も読むべきかもしれない。

とはいえ、明日までにあともう一冊読み終わりたかった。読みたくても、世界観の理解に時間がかかりそうなニューロマンサーは後回し。

簡単な詩集でも読もうかと思ったけれど、そういう気分じゃないし、そういうお茶の濁し方は好きじゃない。

Kindleの積読本たちをみながら熟考した結果、「クジラアタマの王様」を読むことに決定。

なにしろ冒頭から私の大好きなハシビロコウが出てくるし、伊坂幸太郎さんの本のリーダビリティの高さは信頼している。

お風呂で早速読むけれど、冒頭は製品に関するリスク対応の話で、記者会見なども出てきて、職業柄、胃が痛い感じに。

こんなに失敗もしないし、こんなに早く片付く問題でもないけれど、わかりみが深い
この問題がずっと描写され続けると、読み進むのつらいなーと思ったら、3人の男性の少し不思議な共通項の話になり、ほっとする。そして予想外の展開にページをめくる手が止まらない。さすが安心と信頼の伊坂さん。

40%くらい読んだところでふと気付いたらお風呂はすっかり冷めてしまっていて身震いする。
寒くなってきたから気をつけないと。

お風呂から出たあとに、激落ちくんスポンジでひたすらコンロ周りを磨く。しばらく掃除をサボっていたけれど、無事にピカピカになってうれしい。

今日も大したことは何もしてないけれど、頭の中は騒がしかった。

そろそろ読書も年末に向けて総まとめに入るし、これは年内に読みたいという本のリストアップも始めよう。

めぐりずむで目を温めたのに、気持ちが妙に落ち着かない夜。

この読書日記を書きながら、大切な人がみんな幸せになって、そして私の心も平穏であることを願い、そのために自分がどうあるべきかを考える。

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