読書日記#26 夏バテに寄り添う「馴染み知らず」の妄想
7月★日
いよいよエアコンなしでは過ごせなくなってきてしまった朝。
暑さに反比例するように私のやる気は低下していくよう。
無。
昼から出かける予定はあるけれど、午前中は何もする気が起きなくて、でもなんとか、2週間前からずっとクリーニングに出さなければと玄関においてあった服たちをクリーニング屋に持っていく。かろうじて15分だけポッドキャストを編集する。シーツを洗濯する。
ちょっとだけ川上未映子さんの新作「黄色い家」を読む。
そろそろ今年も半ばにきて、年間ベスト10入りするような文芸書の新作が読みたかったので、いよいよ数日前から読み始めた。
読み始めて驚く。あの川上未映子さんとは思えない抑制のきいた文体。いつもの、はじけるような言葉たちが数珠つなぎになってキラキラしているような、「ザ純文学」な文体はなりを潜めている。にもかかわらず、ちゃんとおもしろい。
Kindleだから買った時はわからなかったけれど、けっこうな長編のようなのでチビチビと夏のやる気のしない日々のお供に読み進めたいと思う。
インタビューの書き起こしも、副業のリリース作成も、全然進まない。
先週末の出来事がずっと頭の中をリフレインしてる。
ごはんを食べた帰り道、
「Kanaさんと、好きなもの、けっこう一緒ですね。」
と上機嫌に言われる。
その瞬間に最近みたばかりの「花束みたいな恋をした」を思い出してしまう。同じものがたくさんあることがきっかけでお互いに恋に落ちていく話。
私はコンテンツに関しては、好きなものがたくさんあるから、相手が好きなことについて話したらそれに合わせて自分の好きなものを抽出して語れてしまう。
嘘をついてはいないけど、「だから気が合うかも」というロジックを組み立てることについては、なんとなく気が咎めてしまって、
「好きなものが多いからですよ」
と同意せずに、本当のことを言ってしまった。
え?という顔をしていた。たぶん、求められている答えはそうじゃなかっただろうなぁ。適当に同意しておけばよかったんだろうなぁ。
でも、そのロジックでいったら、相手がそんなに好きじゃないものを私が好きっていったら、距離を感じちゃうってことじゃない?1時間の会話はごまかせてもそのうち繕っている部分がバレてしまう。
いやでも、その人だって別に運命を感じてそんな話をしたわけじゃなくて会話を楽しくするための言葉の文だったんじゃないかな。余計なこと言ったなー。
さて、やる気のしない中で用事を済ませて帰りは近くの本屋に。
実は気になっていた本があった。
馴染み知らずの物語。
滝沢カレンさんがタイトルと少しのヒントから想像したショートストーリーをかくという斬新なスタイルの短篇集。
こんなの面白くないわけない。
兼ねてから滝沢カレンさんのInstagram投稿が、これはもう捉え方によってはある種の純文学ではと思うくらいに日本語の新たな地平を感じさせるものだったので、それを小説にしたら、どんなふうになるんだろうとわくわくする。
話題性も中身の面白さも保証されてるので、どう考えてもみんなで売りまくるべき本なんだけど、発売したばかりなのに、本屋の奥まったところにしか置いてなくて、見つけるのに時間がかかる。うーーん。
立ち読みで1話だけ読む。
とか
とかすでにゾワゾワする。何かが根本的におかしいんだけど別に日本語は間違ってないし読みやすい。
校正するのもセンス問われそうな感じ。
ストーリーもトリッキーで、実際の作品とは内容は似て非なるものなのに、しっかりおもしろいし、元の作品もちゃんと読みたくなる。
この文体は英語が母語だったりすると出てきやすいものなのか。でも翻訳小説が直訳的だとすごく読みづらいからそれとも違うのか。
誰かに解説してほしいなぁ。あと、滝沢カレンさんにはぜひもっと長いのを書いて文芸賞をとってほしい。
もう一冊くらい…と品揃えの悪い単行本コーナーを探索する。
相変わらず売れている本が、これでいいんだろうか、と不安になる並び。
「裁判官の爆笑お言葉集」なんて、一見、もうコンセプトしかなさそうな本だけどこうして10位以内に入るのならそのコンセプトの勝利でしかない。しかもあらすじ読むと読みたい気持ちになってくる。
「天使たちの課外活動」がシリーズ10作目にも関わらず2位にいる不思議も気になりすぎる。「デルフィニア戦記」をかいた方の2011年から始まる最新シリーズのようだ。全然知らなかった。
「デルフィニア戦記」も名前しか知らない。そういうラノベ戦記系の世界もちょっと浸かってみたい気持ちはある。いつか。
うろうろする中で次に気になったのは「がらんどう」。
装丁とタイトルに惹かれる。38歳と42歳の2人の女性の共同生活を描いていて、王様のブランチで話題という触れ込み。
サクッと読めそうな雰囲気だし、岸本佐知子さんがすばる文学新人賞の選評で評価しているのも、安心感がある。
だけどこんなくらいの「気になる」でハードカバー本次々買ったら家が本で埋もれる。KindleでもあるようなのでこれはKindleで読もう。
結局ずっと気になっていた又吉直樹さんのエッセイ「月と散文」を購入。
パラパラめくっていたら、顔写真をつけた申請を郵送するという手続きが死ぬほど苦手でずっとできない、みたいな共感しかないことがつらつらと書いてあって、やっぱり又吉直樹さんはエッセイがいい。
「第2図書館補佐」がとても好きで。Kindle化していないみたいで、文庫本しかないし、もう10年以上前の本なんだなぁって思うと、初めてこの本を読んだときの衝撃を昨日のことのように思い出すので時のたつのははやいなぁと思う。
そういうわけで、また積読を増やしてしまった。
こんなにやる気の出ない時でも本屋だけはその時々の気分に応じて私をそっと包み込んでくれる。
新しい物語に感動するかもしれない未来にワクワクしながら購入した本を抱えて歩く豊かな時間に癒される。
この積読を増やす行為に、私はすっかり依存してしまっている。
せめてもっとたくさん読んで実際のインプットも増やしていきたいんだけど、そこはどうしてなかなかやる気が出なくて、月に4,5冊になってしまうし、嵩張るハードカバーは持ち歩きづらくて、お風呂でも読めなくてなかなか読むタイミングが難しい。
もっと有意義で成長に繋がりそうなことで心を満たしたいんだけど、ままならぬ日々。
7月〇日
また底にきた感じ。
うっすらとした頭痛で目覚める。
今日は予定がない。たぶん。最近整体とかパーソナルとか、人に会う予定がなくても、何かしら時間が決まってやらないといけないことがありまして。
人としてちゃんとしなきゃと思うけれど、時々こういう「無」の時間がないと崩壊しそうになる。
ぼーっとKindleのセールをみる。
70%OFFセールで特にハヤカワ文庫が安いのだけど、一時期ほぼ同じセールでたくさんSFを買ってしまったのでなかなか手が出せない。
滝沢カレンさんの本で出てきた「ザリガニの鳴くところ」。暗く悲しい物語なのかと思って途中まで読んで敬遠していたけれど、彼女の短編が意味不明で面白すぎて、改めて原作を読みたくなった。
ハヤカワ文庫はハヤカワepi文庫が結構好きなのだけど、「千の輝く太陽」も気になる。アフガニスタンの物語。
「リナ」という、どう考えても絶望しかない悲しい亡命少女の物語があるのですが、これがどうしてなかなか夢中になってしまっていまだに本棚のスタメンからはずせない。基本的に悲劇的な話は苦手なのに、時々そうした心理ハードルを超えてくる本が私の本選びの基準を狂わせる。この本もその系統なんじゃないかという空気を感じる。
けれど、買うには至らなかった。
この数日、7月に入って最高気温が30度を超え、夜も汗をかくようになってきて、ずーっとけだるい感覚が続いている。
仕事はかろうじてスイッチを入れてやるし、予約しているパーソナルはいくんだけど、無理している分、「衣食住」が全然回せてないというか。自炊ができてなくてぶくぶく太っているような気がする。
壊れている掃除機の根本的な問題解決もできていなくて。
挙句の果てに…財布をなくした、と思って昨日は食べたご馳走が全然堪能できなかった。精神状態でこんなに食べ物の味が感じられないものなのかと改めて思う。
特にみんながおいしいおいしいといって食べている生ハムメロン。メロンは甘い繊維質の何かっていう感じで普通に食べられはするんだけど、生ハムと合わせたらちょっと気持ち悪くなってしまって。
「生ハムとメロンを合わせて食べようって思った人天才だよね」
って食べながら話して盛り上がっていて、そうなのか、これがみんなおいしいんだ、私の味覚どうなっているんだろうって思う。いやでも何日もひもじい生活とかしてたらこれもまたおいしくなるんだろうなぁ。
ここ数日の体調不良、財布をなくしたかもという不安と生ハムメロンの打撃、気づいたらどんどん注がれるワイン。すべてのカードがそろった感じですっかり悪酔い。視界がぼやけて三半規管が機能しない感じ。頭痛をこの程度に抑えられたのは、薬を飲んでいたおかげかな。
弱っているところを見られたくなくて、なるべく後ろの方の目立たない場所を歩く帰り道。
休みの朝にそんな昨夜のことがフラッシュバックする。
日中ずっと友人にハードカバーで貸してもらったのに、ずっと読んでなかったものをいい加減読まなければと思って「運転者」を読む。
いわゆる自己啓発要素の強めなベストセラータイトル。自分では絶対に選ばないんだけど、普段本を読まない友人がこれはすごく良くて感動したっていうし、実際評価も高いし、気になって。
1時間半くらいで読み終える。
まぁ、文章は読みやすい。
運を引き寄せるにはご機嫌でいること、というメインメッセージにも同感。
でも、これが小説なのかと言われると、どうなんだろう。せっかく物語にしたのに、言いたいことを全部直接的に言語化していて、物語の皮をかぶったビジネス書というか、物語的な手法を取り入れたプレゼンテーションを見てる感じ。
でもこれがベストセラー。
裏にはこれがベストセラーがとれると思った編集者がいて、このわかりやすい文章を組み上げた著者がいる。その人たちは本読みの玄人さんに違いないから、これは売れるだろうってジャッジできたのはすごいなと思う。
そしてそんなこと思いながらも、最近ネガティブだったなぁと反省もする。
何も予定のない1日に読むのにはちょうど良い本だった。
冷蔵庫の食べられなくなったものを処分して、軽く掃除をして、玄関の紙袋類をきれいにする。UBER eatsを頼みつつもそこから立ち上がって急いでスーパーに行き、今週前半くらいは自炊できそうなものを買う。
落ち続けていた海の底にやっと足がついた感覚があるので、ここからまた少し浮上して、ご機嫌に過ごしていきたいなと気持ちを持ち直す。
明日は冷やし中華を作ろう。
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