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心地よく座り続けるという贅沢。都会の「テラス」を再考する。 アイディアのタネ vol.8

実はただ座っていることを許される場所って少ない。

これはこの数年、特に何度も思うようになったのですが、東京って無料でただぼーっと座っていられる居心地の良い場所が本当に少ない。

いきなり話はそれますが、昔、街づくりシミュレーションゲームSimCityを友人がやっているのを横からみていたときのこと。都市を開発していく中で少し住宅が密集してくると「公園がほしい」と住人が次々、不満を言い始めるのです。当時、そんなに公園が街の幸福度上げるものなの?と笑っていたのですが、今、身をもってその気持ちがわかります。

今日のアイディアのタネは、特に在宅勤務する人が増える昨今に、そうした場所ってすごく需要があるんじゃないか、それが人がその街に住む理由にすらなると思ったという話です。

3つの「テラス」が街に私の居場所をつくる

最近気付いたのですが、私が居心地が良い座れる場所、と思っているところには、みんなテラスという名前がついていました。

昔から好きなのは隅田川テラスです。
これは隅田川沿いにベンチやテーブルが整備された空間のことを言いますが、特に夜に散歩して、夏は友達とそのベンチに座ってとりとめない話をするのがかけがえのない思い出です。
ランナーや犬を散歩する人で常ににぎわう川沿い。この空間があるからこの街に住みたいと思える場所です。

隅田川テラス沿いにあるカフェからの一枚。

次に空間の提供の仕方として太っ腹だなと思うのが六本木の東京ミッドタウン。屋内外にフリーで座れる場所がたくさんあり、そのうちの一つはウッドテラスと呼ばれます。
ミッドタウンにはオフィスもありますし、ちょっと打ち合わせするにも重宝します。
平日も休日も客層に違いはあれど常に満席。どれだけこの空間が愛されているかが伺えます。
かく言う私もオフィスが近く、お昼ごはんのあとに少しの間座って呆けてピリピリする気持ちを鎮めたりしていることがよくあります。

平日雨の日のミッドタウン風景。のどか。

3つ目は「コレド室町テラス」
いよいよ施設名に「テラス」がついています!

2019年9月にオープンしたコレド室町1,2,3に続く施設でしばらくの間、存在を認識していなかったのですが、ハーブティーのお店があることから興味をもって、何度か行くうちにとてつもない心地よいテラススペースがあることに気付きました。
地下1階駅直結のスターバックスでコーヒーを買って、時には2階の誠品生活で本を買って、何時間も木漏れ日の下で読書して過ごすことができます。公園のベンチだと自然があふれすぎて虫が怖い私にとっては、毎日ちゃんと手入れされている空間としてより安心できます。

スタバで買ったコールドブリューコーヒーを片手にKindle読書。至福。

そしてなんと自分でも驚いた最近、引っ越すことも検討し始める中で、失いたくないものの筆頭に「隅田川テラス」と「コレド室町テラス」を思いつきました。こういう場所のある街がいいなーと。

「テラス」という名称の施設が実は増えている!?

テラスとはもともとフランス語で、建物の前面にある一階と同じ高さの屋根のない台状の場所(露台)や岩壁などにある狭い棚状の地形、段丘(だんきゅう。河川、湖、海などに接する階段状の地形)を指すそうです。
本来の意味とは少し離れつつありますが、調べてみたところ(ちょっと昔の記事ですが)テラスという施設名が増えていることを知りました。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO84884270W5A320C1000000/

マーケティングコンサルタントなどを手掛けるホワイトナイト(東京・港)の代表取締役、新井庸志さんによると、「『テラス』の流行は近年の『共有』『シェア』の流行と密接に関係している」と分析する。
NIKKEI STYLE(https://style.nikkei.com/article/DGXMZO84884270W5A320C1000000/

2015年頃はまさかこんな在宅勤務する人が増えるなんて想定されていなかったと思いますが、街でシェアできる「テラス」があるというのは今になってとても価値を発揮しているのではないでしょうか。

優しくて冷たい都会の距離感の在り方を問う

人と人の間には適度な距離感が必要だと思います。たとえば、地域で誰かともっと交流を深めたいならバーやスナックやはたまた地域のコミュニティ活動なんかに参加するのが良いと思うのですが、ウェットすぎる関係はちょっと抵抗がある。そういうときにこのテラスくらいの居場所は街と関わるファーストステップとしてちょうどよいのではないかと思うのです。

私が大好きな小説に、日比谷公園での徒然なる日々を描いた芥川賞作品「パーク・ライフ」があります。何も起きないと批判され評価が低いのですが、心地よい文章と心地よい日比谷公園の表現があいまって読んでいてとても幸せになれるし、そこで淡く繋がる人たちの関係の描き方が巧みで、都会の優しい冷たさの良い部分がしんしんと伝わってきます。

そういう淡い人間関係の暗黒面が同著者の山本周五郎賞受賞作「パレード」でもあるので、お互いに干渉しすぎないと起こる悲劇もあると思うのですが、そうはいっても「テラス」的な空間がまだまだ不足していると思うので、もっと増えたらいいのになと願ってやみません。

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