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【一部訂正】ジャパニーズウイスキーの定義について思うこと

<写真:広島県竹原市の竹鶴政孝・リタ銅像>

2021年2月12日、日本洋酒酒造組合から「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」が発表されました。

http://www.yoshu.or.jp/statistics_legal/legal/independence.html


早速ガイアフローの中村社長が、同社のコラム内で日本洋酒酒造組合についてや今までの“ジャパニーズウイスキー”の問題等について書かれていらっしゃいます。非常に参考になりますので、リンクを貼らせていただきます。ぜひご覧ください。

http://www.gaiaflow.co.jp/blog/managing-director/11485


さて、今回の私的な感想をつらつらと書かせていただきます。

比較的厳格化された定義

今回の定義は、個人的には正直、想定の範囲内であり、期待された落としどころという印象を受けました。
比較的スコットランドのスコッチウイスキーの定義に類似しており、その製法を順守してきたディスティラリーにとっては、むしろ当然という定義だったのではないでしょうか。

いくつか違う点について私的な推測を含めて分析してみました。

【訂正】原材料について

【2021/02/17 18:10訂正】

元の記事について、焼酎ウイスキーが可能な余地を残したと書かせていただきましたが、他の方のブログや投稿を拝見すると、むしろ麹の使用を禁止していると解釈する内容となっているようです。

いろいろ調べてみたところ、ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準第2条において、「本基準における用語の定義は、別に定めるものを除き、酒税法(昭和 28 年法律第 6 号)、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(昭和 28 年法律第 7 号。以下「酒類業組合法」という。)、ウイスキーの表示に関する公正競争規約(昭和 55 年 8 月 7 日公正取引委員会告示第 22 号制定)及びウイスキーの表示に関する公正競争規約施行規則(昭和 55 年 7 月 30 日公正取引委員会承認・制定)による。」とされており、酒税法上の単式しょうちゅうとウイスキーとの製法から照らし合わせると、麹を使用したものは、ウイスキーと名乗れないことから、この定義はむしろ麹ウイスキーを排除した規定だと分かりました。訂正してお詫びします。

なお、焼酎自体の海外展開は応援していますので、現在ある色規制を撤廃し、焼酎の樽熟成を認めるようにしてほしいとは思っています。

スコッチウイスキーでは原料は「イースト菌」、アイリッシュウイスキーでは「酵母の作用により発酵」と、いずれも酵母の働きによる条件となっていましたが、ジャパニーズウイスキーではその規定がありません。これは、麹によるジャパニーズウイスキーの余地を残すためにこのような定義になったのではないかと推測しています。熟成焼酎など、海外市場を意識した製品が焼酎業界でも登場しており、日本独自の文化である焼酎とジャパニーズウイスキーとの融合が今後期待できるのではないでしょうか。



貯蔵について①

こちらは、スコッチウイスキーでは「オーク樽」と定められているところ、「木製樽」とアイリッシュウイスキー寄りの定義になっています。このことから、杉や桜、栗などの樽も使用できることとなります。今後のジャパニーズウイスキーのスタイルを狭めないためにも、オーク樽に限定しなかったのは評価できるのではないでしょうか。

貯蔵について②

さて次に、貯蔵期間については3年以上と、スコッチ・アイリッシュウイスキーと同様の期間となりました。高温多湿な日本において、この期間が長い短いというところについては、意見が分かれそうです。実際静岡蒸溜所のオクタブ樽におけるエンジェルズシェアが年15%と、一般的なスコットランドの年3%と比較し5倍近くあります。細長い日本においては、北海道産と沖縄産とで熟成度合いが異なることからこの定義に疑問を持つ人もいるかもしれません。個人的には、現在の段階での3年は、ジャパニーズウイスキーの質を高めるという意味で賛成ですが、スコットランドやアイルランドと違い南北に長い日本においては、今後は地域によって何らかの差を分けることを検討する必要もあるのではないかと感じています。

瓶詰について

瓶詰のアルコールを40度以上としたのは非常に好印象に受け止めています。というのも、酒税法的な観点でいうと、ウイスキーにおける課税は、37度までは定額(1KLあたり370,000円)であり、それ以降は1度超えるごとに税額が上がる(1KLごと1度超えるごとに10,000円加算)という性質を持っています。税金をケチるのであれば、アルコール度数37度で売ってしまえばいいわけです。実際スーパーにある(質的にも価格的にも)安いウイスキーは、アルコール度数が37度で売られていることが多いです。そのようなウイスキーが、他の正攻法で作られたジャパニーズウイスキーと同じ土俵でジャパニーズウイスキーの顔をして販売されているのはいたたまれませんでした。そういったところからも、わずかながらでもそういったウイスキーの価格競争力が落ちることは歓迎する内容だと思っています。


特定の用語と誤認される表示の禁止等について

これは思い切ったことだと思いました。

一  日本を想起させる人名
二  日本国内の都市名、地域名、名勝地名、山岳名、河川名などの地名
三  日本国の国旗及び元号
四  前各号に定めるほか不当に第 5 条に定める製法品質の要件に該当するかのように誤認させるおそれのある表示

いずれも禁止ということで、ジャパニーズウイスキーの顔をしたいわゆるバルクウイスキー(フェイクウイスキー)が一気に淘汰されることとなります。
というか、そのために設けたのでしょう。さて、“不正直なジャパニーズウイスキー”を売ってきたメーカーがどのような対応に出るのか注目です。


まとめ

今後この発表がされたことで、様々な方が様々な視点で今回の定義についてコメントされるのではないでしょうか?
色々な方の意見を拝見し、勉強させていただけたらと思います。

さて、今回のこの定義で気になる点は、日本の「グレーンウイスキー」「ブレンデッドウイスキー」についてです。第5条第2項では、

「特定の用語は、『ジャパニーズ』と「ウイスキー』の文字を統一的かつ一体的に表示するものとし、『ジャパニーズ』と『ウイスキー』の文字の間を他の用語で分断して表示することはできない。」

とされています。
ここからすると、「ジャパニーズモルトウイスキー」、「ジャパニーズグレーンウイスキー」、「ジャパニーズブレンデッドウイスキー」といった名称は使用できないこととなります。

皆さんご承知おきのとおり、日本国内でグレーンウイスキーを大量生産しているのは、サントリー、ニッカ、キリンと大手メーカに限られており、そのグレーンウイスキーを独占的に使用しています。つまり、この三社を除き、グレーンを使用した時点で「ジャパニーズウイスキー」を名乗れなくなるわけです。

かねてより、日本国内におけるウイスキーにはブレンドの概念が乏しく、シングルモルトだけが流行する状況に個人的には危機感を持っております。世界でもシングルモルトより圧倒的にブレンデッドウイスキーのほうが飲まれているわけです。


ジャパニーズウイスキーをよりハイエンドな国際ブランドとしての地位を確立するためには、今後「ブレンデッド」ということも考えていかなければいけないのではないでしょうか?今回のこの定義にあたっては、奇しくもサントリー、ニッカ、キリンの三社がワーキンググループとして加わっています。ぜひこの三社には、「責任」の意味も込めて、日本国内のクラフトディスティラリーにグレーンウイスキーを売っていただきたいものです。

今後のジャパニーズウイスキーに素晴らしき未来が待っていることを期待しています!!

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