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プリマジスタたらんとした者(上)

宮のきざはし

『二人のもの祈らんとて宮にのぼる,一人はパリサイ人,一人は取税人なり.パリサイ人たちて心の中に斯く祈る「神よ,我はほかの人の,強奪・不義・姦淫するが如き者ならず,又この取税人の如くならぬを感謝す.我は一週のうちに二度斷食し,凡て得るものの十分の一を献ぐ」然るに取税人は遙に立ちて,目を天に向くる事だにせず,胸を打ちて言ふ「神よ,罪人なる我を憫みたまへ」われ汝らに告ぐ,この人は,かの人よりも義とせられて,己が家に下り往けり.おほよそ己を高うする者は卑うせられ,己を卑うする者は高うせらるるなり』

(ルカ 18:10-14)

 プリズムストーンカフェ原宿店(通称「パラ宿店」)を目前にして私の脳裡に浮かんだのは,イエスの語った「パリサイ人と取税人の祈りのたとえ」だった——.

 令和3年(皇紀2681年)12月30日——年末年始の休暇を首都で過ごしていた私は,私にとっての宮である「パラ宿店」を参詣しようとしていた.昼前に新宿駅に着いた私は,地図アプリを頼りにひとり南に向かって歩き,そして旧渋谷川遊歩道路に沿って冷たい小市民の街を進んだ.寒空に雲はまばらで,太陽が眩しかった.

 しばらく歩くと,私は緩やかな坂道を登ったその先に,曲がり角のつき当りに聳立する「パラ宿店」を認めた.「パルク表参道」と呼ばれる3階建ての建物の2階に構えるそれは,外面に特徴的なプリズムストーンの装飾が施され,さらにプリマジスタ達の聖画像が掲げられていた(図1参照).まるで,それが乾いた塵俗の街とは非連続な——聖別された——空間であるということを,人間たちに知らしめようとするかのように.私がなおも宮に近づくと,無言の聖画像は地上の私に語りかけてきた——時は満てり,神の国は近づけり,汝ら悔改めて福音を信ぜよ…….

図1 プリズムストーンカフェ原宿店(通称「パラ宿店」)(フォロワーさん撮影)

 私はさらに足を進め,カフェスペースの予約状況を示す小さな看板——予約は埋まってはいなかった——が傍らに置かれた宮のきざはし(階段)をのぼり,正門のガラス戸越しに境内を拝した.絢爛豪華な内装.所狭しと並べられた筐体とグッズの陳列棚.そして,境内に賑わう女児を中心とした女性たちとその連れ合いの数人の男性——.

 二人のもの祈らんとて宮にのぼる,一人はパリサイ人,一人は取税人なり……に始まるイエスのたとえ話が私の脳裏に浮かんだのは,その時分だった.……取税人は遙に立ちて,目を天に向くる事だにせず,胸を打ちて言ふ「神よ,罪人なる我を憫みたまへ」——強烈な眩暈と嘔気とが私を襲い始めていた.女児アニメの“大きなお友達”は罪人ではないのか.私は,宮にのぼった取税人に他ならないではないか——.

 ガラス戸の前に数秒たたずんでいた私は,我に帰ると踵を返して宮のきざはしをくだり,そしてもと来た道を足早に北に戻った.まつりさん……ひな先輩……れもんさん……あまね様……みるきさん……あうる先生……罪人である私を助けてください——歩きながら私はひたすら心の中で祈り続けた.私は回心していた.太陽は相変わらず眩しかった.

〔続〕

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