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かけがえのない『はじめて』の全て/長女と想い出の絵本【1】

この春進学し、もう私の後をついて回った“子ども時代"からは確実に卒業していく長女。初めての出産、育児…思えば、「一番手を掛けた」「一番大変だった、不安だった」“はじめて”の全ての主語は、親である私ばかりで、彼女の本当の気持ちに寄り添えていたかどうか、空回りしてばかりだったかな……と、反省もしきり。それでも、「初めて」は本当に特別で、いとおしく、言葉にすることの出来ないほどにかけがえのない時間です。長女と一緒に手に取って、擦りきれるまで一緒にいた絵本達、いつか二人で思い出せるように残しておきたいと思いました。何編かに続いてお届けします。ぜひお付き合いくだされば嬉しいです。

①『しろいうさぎとくろいうさぎ』ガース・ウィリアムズ/福音館書店

ウィリアムズの繊細で絵画のような作品世界で展開される、ちいさなうさぎ達の“愛”の物語。誰かを深く想うこと、ずっと共にいたいと願うこと、どんなに小さくても、響くものがあるんですね。大好きで、何度もせがまれた記憶があります。お互い傍にいるだけではどことなく不安で、思い切って言葉にして気持ちを伝える勇気、受け止めてもらえる幸福。物語のそうした強く優しいメッセージが、きっと私の知らないところで寂しさや不安も抱えていたはずの彼女にとって、ある時期確かに大切な、安心する世界だったのかもしれません。無自覚であっても。幼くても、幼いからこそ、言葉に未だできない気持ちというものは大人以上にはっきりと形を取り、揺れ動きもするのだと想います。そうした心の揺れを“そっと”抑えることは、読み聞かせでぴたりと体をくっつけあう確かな時間そのものの役割であると同時に、作品自体のメッセージ性も欠かせないものだと感じます。

②『なにをたべてきたの?』岸田衿子・文 長野博一・絵/佼成出版社

とにかくのびのびと、ユーモラスな1冊。開くたび、シンプルな背景の余白が順に展開する物語にぐっと集中させ、目が離せなくなりつつも、どこかのんびりと笑顔で楽しめるロングセラー作品です。

主人公のしろぶたくん。「そんなにいそいで、どこへいくの?」行く先々で現れる、色鮮やか、おいしそうな食べ物たちを、ついつい“ぺろり"してしまうぶたくん。すると、まっしろなそのおなかに、鮮やかな色が灯って……!?わぁこんなことってあるのかな?と思いつつ、気づけば夢中になって、次は?次はなにいろ?と、娘と争うようにページをめくりました。食べ過ぎちゃって困っちゃった先に用意されている「オチ」もなんとも秀逸で、子どもらしい視点とユーモア、何度でも開きたくなるセンスに溢れた名作です。初版は1978年、ママの生まれた年だねー!!との私の言葉にきょとん、としていた娘。今、読んでも、全く古さを感じさせず、子どもだけでなく大人にも空想の「余白」を思い出せてくれる、大切な想い出の一冊です。

③『できるかな?あたまからつまさきまで』エリック・カール作 くどうなおこ訳/偕成社

溢れる色彩と踊り出しそうな画面で、子どもの心をわしづかみにする絵本の巨匠こと、エリック・カール。作品のテーマや題材はそれこそ多岐にわたりますが、特に娘のお気に入りだった1冊。どうぶつたちのポーズを、「できるかな?」と、登場する子どもたちが順にマネしていく構成で、読めば絶対に!体を動かしたくなってしまうため、眠る前の読み聞かせのリクエストには正直「え~」と思ってしまうことも多かった作品としても想い出深いです(笑)。でもひとたび、どったんばったん!ベッドの上で体を動かし始めれば、まだハイハイの次女も巻き込んでの突然の運動会。もしかして嫌なことが保育園であった日も、私から叱られた&叱ってしまったモヤモヤの気持ちも、笑顔と汗に散らばせて、解き放ってくれたのかなと思います。くどうなおこさんの訳によるテンポもリズムも素晴らしく、あっというまに読み終わってしまうので、「もう一回ー!!」のリクエストがまた、嬉しくもありトホホ……なんですよね。あぁ、子育ては本当に体力勝負。そして、ここまでやってあげたいな、やらなきゃだめなのかな、のせめぎ合いの繰り返しであったこと。放っておけば忘れるに任せてしまうそれらの気持ちを、繋ぎ止め、思い出させてくれるのが絵本なのだと、成長した娘の背姿に目をやりながら感じます。

時間は止められなくて、だからこそ良いのだし、感傷なんて時には邪魔なだけ……それも分かる気がします。正しさやこうある“べき"ではなく、そうした「子育て」の現実の中で、だからこそ、『絵本』が繋いでくれる想い出があったことに、ただただ、嬉しい、そんな気持ちです。新米ママだったあのころの自分に、ひとりで自分の世界をあの頃から切り開いていってくれていた娘に、私たちを繋いでくれた沢山の作品に、その時間の全てに、“ありがとう”と。何度でも、伝えたいです。




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