見出し画像

人から人へ。温かさを刻み続ける、「図書館」という場所/『晴れた日は図書館へいこう』緑川聖司

私事だが、このたび、図書館スタッフとして
働き始めることになった。

本、と本周りのことが大好きで、
いままで2つの書店で働いてきた私にとって
書店も図書館も、どちらも大好きな場所だ。

おなじように「本」に囲まれた場所でありながら、
その役割はもちろんのこと、雰囲気もずいぶんと違う。

学校の図書室、そして地元の図書館は
浴びるように本を読む私にとって最高の場所だった。

大人になって感じることは、図書館に行くことは
イコール心とからだの余裕、かもしれないということ。
職場と家とを往復するだけの生活をしていると、
どんな町にも必ずあるはずの「図書館」の存在は
エアポケットのようになってしまう。

見ていても、見えていない。

映画「耳をすませば」に登場する
古道具屋・「地球屋」に、あるとき猫をおいかけて
回り道をした主人公・雫がはじめて気づいたように、
こちらに受け入れる準備ができて初めて、
姿を現す、やさしい世界。

そんなことがどうしてか、この現実には度々起こる。

だから図書館という場所は、
「こども」とひときわ、相性がいい。
好奇心のかたまりで、自在に伸び縮みする時間を手にしている
こどもたちにとって、
図書館という場所は、あるときはワクワクする宝探し、
あるときはひとりでも過ごせる憩いの場、
そして友達との出会いの場でもある。

「晴れた日は図書館へいこう」の主人公・しおりは
まさにそんな、“図書館の申し子”。
憧れのいとこが司書をしている地元の図書館に
徒歩で、自転車で、
学校帰りにも休みの日にも
いつだって通える…
なんて心躍る、ワクワクする設定だろう。

舞台となる「雲峰市」
実在しそうなのにどこかファンタジックな描写も、
美弥子をはじめ図書館の魅力的なスタッフの面々も、
そしてしおりを中心とした登場人物たちの
いきいきとした魅力、
関わり合いを通して見える人と人との繋がりの温かさ。
どれも、ひとつひとつはささやかなのに
芯のある強さをもって、心に響く。

そして、作者の、「図書館」という『場所』に対する
この上ない尊敬と愛情が、ページの合間からひしひしと伝わってくるのだ。

モノや心のやりとりに
「場所」さえ必要としない、今という時代に、
図書館の存在は、
たとえば本を所蔵する…という
役割を超えた「場」としての価値や大切さを、
誰にとってもいちばん身近な存在として
問いかけてくれるのかもしれない。

発表から17年を経て
ロングセラーとして愛される本作は
私に薦められて早速、
我が家の娘達も手に取っているけれど
人から人へ、手から手へ、
温かさと希望を、これからも静かに、ゆっくりと
刻み続けるのだろう。

私にとって、
これからも「本」に関わる仕事をすることの
意味や目的も、
そうでありたい、と、強く願うのだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?