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映画のミカタvol.2/あえての冬のホラー

【Whipped本誌連載】「Encounters/トビラを開ける」②

『スクリーム』シリーズに観る、ジャンク・フードなお楽しみ。

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ソフィア・コッポラが撮影した、アメリカのティーン達のプライベートルームの写真を見たことがある。ロマンティックなキルトやレースのベッドカバーに、履き古したスニーカーのまま乗っかって、けだるそうにポーズを取る少女達。年齢に似合わない真っ赤な口紅をひいて挑発的にカメラをにらむ隣には、ほつれたクマのぬいぐるみ。ちぐはぐで安っぽいからこそ、どこか心をざわつかせるイメージ。ティーンが登場するホラームービーには、もれなく、そんな”ざわめき”が詰め込まれているように思う。

奥手な主人公(美少女)と、学園の人気者である親友、ボーイフレンド、お決まりの親との衝突や、セックス&ドラッグの誘惑。それらを「青春」という箱に放り込んで、最後に血糊をふりかければ、ホラー映画の出来上がり?かもしれない。

『スクリーム』は、記号的な”お約束"をなぞりながら、冷めた視線で、全く新しい衝撃を生み出した傑作だ。見知らぬ悪者が犯人なのではなく、クラスメイトの間で繰り広げられる殺人劇はその「軽さ」がかえって不気味さを感じさせ、続く第2作では1作目の実際の事件を題材にした映画を、試写会に集まった聴衆が(あのあまりにも有名な)殺人鬼のコスプレで悪ノリしながら楽しむのも、心がざわつくいやらしさだ。同時期に台頭し始めたリアリティ・ショーに代表される無責任な暴力、特命情報社会の「闇」や空気感を、監督は描きたかったのかもしれない。

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しかしそんなシリーズも、3作目を迎えるや、多くのホラー映画と同じように、「私怨」が原因となったやや生々しい展開になってしまっている。同じ登場人物で前作を踏まえたストーリーを進めていくため、後に行くほどそうしたキャラクター間の縛りが出てきてしまうのは致し方なく、それでも主演のネーヴ・キャンベル、デヴィッド・アークエット、コートニー・コックスのキャラ立ちの良さ故にそうした点もあまり気にならず楽しめる。猥雑でポップ、クールで残酷、なのにどこか爽快な鑑賞感。この作品にしかない”時代の空気”を、リアルタイムで体験できた嬉しさを、ただ純粋に感じつつ、ジャンクフードのように時折無性に楽しみたくなるシリーズなのである。

作品情報】「スクリーム」監督:ウェス・クレイヴン、出演:ネーヴ・キャンベル、スキート・ウーリッチ、デヴィッド・アークエット他(1996年アメリカ)

公開時にブラックさと斬新な設定で世界の話題を席巻した、新感覚スプラッター・ホラー。立て続けにシリーズ3作が製作され、2011年には「ネクスト・ジュネレーション」と題されたシリーズ4作目も公開された。ホラー映画を楽しみながら批評家気取りで議論を交わす高校生達が、そのお約束をなぞるように次々殺されていく。現実離れしたドライでスピーディな展開にリアルさを感じさせ、メディア漬けの日常に現実感を麻痺させていく若者達の姿は後のSNS時代を予見するよう。巧みなキャラクター造形とストーリー、時代を先取りする視点の鋭さが、多くの熱狂的ファンを生んだ快作。


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