見出し画像

タヌキ、自転車に乗る



山を下りる頻度が増えたので、父が自転車の手入れをしてくれた。6年生の時に買ってもらった自転車は多少傷んでいるものの、化けタヌキという私にはりっぱなぴかぴかの自転車だ。きょうだいの旅立ちまで学生生活を支えたのち物置で休んでいたが、15年物とは思えないはたらきをしてくれている。


人里に職を得た。一日3、4時間の気楽なパートとしてはたらくのは、化けタヌキの体力には都合の良い、たいへんありがたい職だ。昼食をとり、編み物の続きをすこし進めてから里へ下りる。片道徒歩30分だったのが10分に短縮された。日よけに飛ばない帽子を、雨よけにレインコートを注文した。寒ければ手袋があるし、脚力がつく。小さい範囲で暮らしていくぶんには車がなくても、生きていける。はたらくところが近くなのも幸運だった。職場、スーパーたち、家。ぐっとシンプルになった。図書館が再開するまではこの範囲でじゅうぶんだ。しばらくはこのまま、やっていくことになるだろう。


日々往来する路のわきには、ゆたかな庭をもつ家がたくさんある。やっと咲いた桜やツツジ、目を引くスイセンのきいろ、すっと伸びるチューリップ。こんなところにタンポポ。セイヨウオオマルハナバチが通り過ぎるのを、身を固くして待つ。雨が多いのは植物の生長を促すためなのだろうか。風はまだ荒い。人間たちがウイルスで窮屈にしているなか、自然界はいつも通りの気がする。春なので、芽を出して花を咲かせる。シンプル。生だけ大切にして。


いまの暮らしに満足している、と声をあげにくい時世だけれど、少しまえの自分よりはかなり生きやすくなった。自分の体調に即して生活をすること、やりたいことを少しずつ消化していくことで歩んでいくこと。それでも気ままにやればお金は足りなくなっていくので、フルタイムではたらくことや結婚を考えることになる。このタヌキは独身なのだ。

世の中には素敵な独身男性に溢れているのだろうけれど、その中からさらに身近で化けタヌキと出会うのは難しく思える。まだ会っていないだけなのだろうが、その辺鼻が利かないもので、たいてい素敵だなと思う相手は人間だったりする。いないかな、未婚の化けタヌキ。



 月島月子がとてもいい日記を書くから、暇ダヌキもちょっと便乗。最近めっきり詩が書けなくなってしまったので、言葉ではなく糸や線を紡いで過ごしています。またいつか、詩が書けるといいな。気が向けば次回、「タヌキ、英国貴族に憧れる」でお会いしましょう。

さて、ドロン。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?